河原のキャンプ

 十二月に入って寒くなると流石に見なくなったが、我が家の近くを流れる猪名川の河川敷には、気候が良い頃は週末になると決まって一つや二つテントが張られるのが見られる。と言ってもここ1〜2年ぐらい前からの、最近のことである。多い時には四つも五つも点々と並ぶこともある。

 河川敷と言っても、我が家のある大阪側の方は広いが、いくつもの野球場やサッカー場が作られており、それで一杯だが、対岸の川西側の河川敷の方はそれ程広くない。それでもそちらの方が条件が良いのか、テントが見られるのはいつもそちら側である。

 テントといっても、多くは袋状になった一人用のものが多く、時には家族連れのこともある。友人を誘って二人で隣り合ってテントを張っている人も見られる。ほとんどの人はバーベキューでもして、テントで寝るということらしい。

 河川敷なのでオープンな広い空間があるには違いないが、別段景色が良いわけでもなく、山や郊外の広々とした景観が広がっているわけでもない。利用している人たちは概ね近所の住民達である。

 何もこんな所でキャンプをする為に、わざわざテントを買って、運んできて、狭いテントの中で寝なくてもと思うのだが、気候の良い頃の週末にいくつもテントが並ぶところを見れば、家で寝るのとは違った非日常的な経験が出来るので好まれるのであろうか。

 色々想像を逞しくしてみると、最近の家の構造や狭さに関係があるような気がする。一般に狭い敷地に一杯一杯建てられていて、庭がなく、隣の家と接近しているためか、殆どの家は窓が小さく、昔の家の縁側のような大きく広いた開口部がない。極めて閉鎖的な構造になっている。

 その上近隣との交流もなく、仕事から帰って寝るだけの場所となっており、昼間に一人で中に居れば、閉じ込められて窒息しそうは感じさえしかねない。マンションならまだしも、窓外の空間が広いし、ベランダから空が見えるが、密集した一戸建てでは空さえ満足に見えず、閉塞感が強い。気分解放のためにも、自然と広い空間を求めることになるのではなかろうか。

 そういう下地のある所へスポーツ用品屋の商業主義が食らい付いて、テントや関連物品、バーベキュー用品などを売り込み、それにまんまと乗せられた人たちが無駄なものを買い求め、ささやかな河原のテントでの一夜を明かすことになっているという構図ではなかろうか。 

 それでも利用する人たちが、このささやかな広い河原の一夜で、非日常的な気分を味わい、明日からの活力を得られるのであれば喜ぶべきことであろう。