広天四面紅に染まる


 何処かにも書いたが、歳をとって仕事に行かなくなってからは、毎朝、まだ暗いうちから近くを散策することにしている。東西南北。あちこちに出かけるが、次第に自然と決まったコースが出来るもので、その日の気分で、その何処かに行くことになる。

 中でも好みのコースの一つは、すぐ近くを流れている、一級河川猪名川の堤の遊歩道や、球場やサッカー場のある河川敷を歩くことである。その日の気分で、上流へ向かったり下琉へ行ったり、左岸の日もあれば、右岸の日もあるということになる。

 堤の上も、河川敷もよく整備されているので安心してゆったりと散歩出来る。まだ明けきらない頃は人も殆ど見かけないが、五時半を過ぎる頃からはボツボツ人に出会うようになる。ジョギングする人、犬の散歩、老人のリハビリ、サイクリングなどと、人様々だが、河原の道は結構利用されているようである。

 堤の上は街路より少し高く、河川敷もかなり広いので、都会の近辺ではなかなか得難い開けた空間で、視野が広く気持ちが良い。朝早くは、殆ど人通りもないので、広い天地を独占したような気分が味わえる。歩いているうちに夜ガ明け始め、東の空が薄明るくくなって来ると、東の方の雲が赤く染まり始め、次第に深紅に輝き始める。

 それに続いて、西や南の空に浮かぶ層雲も、反射光を浴びてか、赤みを帯びて来る。東の空の赤い雲は次第に強度を増して輝き始める。日の出の前奏曲である。静かな東の空の真っ赤な雲の輝きは何か神々しささえ感じさせられる。

 やがて、赤く染まった雲の周りの黒かった空までが次第に青みを帯び、刻刻明るさを増して夜が開けて来る。天空の様子は、その日の雲の量や配列などによっても異なるが、今朝の空は特別に美しかった。

 曙の朱色が東から始まり、次第に南や西の空にも投影されて、たなびく雲が皆赤味を帯びて行き、遂には北の空まで赤く染まり、広大な天空が端から端まで、全てが橙色から朱色に染まっていったのは見事であった。こんな素晴らしい朝焼けは、長く生きて来ても、初めての経験であった。しばらく呆然として、首が痛くなる程まで、広い天空を見上げ、眺め回していないではおれなかった。

 子供の頃は朝焼けが綺麗な時は雨が降る兆候だと教えられた記憶があるが、毎朝散歩をしていて、毎日美しい朝焼けを見て感激していても、その後雨の降った経験はない。しかし、今日あたりは、台風の影響で午後は雨かもとも言われているので。この美しい朝焼けがその前兆なのかも知れない。

 「早起きは三文の徳」と昔から言われているが、毎日の早朝散歩のご褒美として、こんな素晴らしい満天紅の朝焼けを見せて貰えたのであろうか。