自国礼賛の危うさ

 戦後70年以上も経つと、戦争を経験した人も少なくなり、経済成長も止まり、少子高齢化時代になって、世相もずいぶん変わって来た。戦争に対する反省やそこからくる平和主義が薄らぎ、政府の政策もあって、最近は「もう一度日本 日本を取り戻せ」といった声が大きくなって来ている。

 自分の国が自慢できる国であって欲しい、自分の国に誇りを持ちたい、と思うのは当然のことであるが、政府主導のこのスローガンで「取り戻したい」のはどうも戦前の大日本帝国であり、明治憲法天皇制国家の復活のようである。

 国民がこの国に誇りを持ち、自慢できる国にするのは、戦後の民主主義の日本を踏まえた前向きの発展こそがその道であるはずであるが、今の動きはそれとは逆の後ろ向きに歴史を逆行しようとするもののようである。

 現実のアメリカ従属の現実に目を瞑り、過去の歴史を否定し、忌まわしい大日本帝国の侵略をなかったことにしたい。東日本大震災のような時にも略奪など起こらず平静だったことを日本だからこそと自慢する人もいるが、ニューオリエンズの台風カタリーナの時も避難者は冷静で助け合っていた。日本でもぎりぎりのところで平衡たもたれていたのであり、あまり変わらないと考えた方が良いのではなかろうか。

 日本も長所も欠点もある多くの国のひとつ、日本人が長所だけ強調して自慢すればナチスと同じ。ニッポン人の仕事ぶりに『ウチの国も見習いたい」「もう故郷に帰りたくない!秋のニッポンで帰国拒否続出」などという本もあるが、日本の入国管理局で絵殺されたウイシュマさん初め何人かの犠牲者もいる。

 文化も社会もその発達段階も異なるので、それぞれの国によって社会のあり様にも違いがあるが、この国が全てよく、他の国が全て悪いというようなことはなのではないか。

 自国を礼賛するのも悪くないが、他国の長所や欠点も冷静に見るべきであろう。