戦争をして何が勝てるもんかね

 日米戦争が始まる前のこと、祖母が言った。「アメリカのようなあんな大きな国と戦争して何が勝てるもんかね」と。軍国少年であった私は「婆さん何を言ってるんだ」と反発したものだったが、事実はその通りになった。伯父や親戚の者がアメリカとの陶器の貿易などをしており、周囲からアメリカの様子なども聞いて知っていた祖母には、情勢を客観的に見る目があったのであろう。

 今や日本政府は、恐らくアメリカからも言われて、近年益々軍備を増強し、財政事情にも先んじて軍事費を国家の総予算の2%にまで増やし、平和憲法とは全く反対の敵基地への先制攻撃まで可能としてしまうようである。しかも、それはアメリカのための行使にも「ノー」とは言えないということである。

 これではアメリカが中国の発展に対抗して、色々手を打っている状況を見れば、将来アメリカのために中国と戦わされる恐れが十分あることを認識しなければならない。日米安保条約によりアメリカに指示されれば、日本政府はそれに従わざるを得ないであろう。そのアメリカは世界で一番戦争をしている国であり、でっち上げの常習犯でもあることも忘れてはならない。

 古くはキューバ戦争での戦艦メイン号爆破事件以来、ベトナム戦争でのトンキン湾事件イラク戦争でのイラクの核開発疑惑、アフガニスタン戦争などと数えればキリがないぐらいの諜報、謀略を繰り返していることを考えれば、何らかの謀略により、日本が代理戦争をさせられることになる恐れも大きい。

 ところが今の日本の実態はいくら軍備を増強しても、相手が何処の国にしても、戦争をして勝てるような国であろうか。それをも考えて軍備増強を考えるべきであろう。軍備増強より折角の平和憲法を生かし、何処の国にも脅威を与えず、外交力をこそ増強して周辺国との互恵友好条約を結ぶなりして、友好安全を図る方が遥かに安上がりな良策であろう。

 少子高齢化で人口は減り、高齢人口は増えるばかりで、海外からの助けがなければ介護にも手が回らない。若者も当然少なくなるばかりで兵隊として使える人数も減る。小さな島国で一億からの人口を抱えており、それも大都会に集中し、人々の生活も輸入に頼り、自給率は小さい。土地も狭く農業は衰退し、食料などの自給率は30%ぐらいに過ぎない。海上封鎖されればたちまち国民は飢え、産業は立ち行かなくなる状態である。

 しかも、海沿いには固定された地上の原発がいくつも並んでいる、国土が狭いので水爆の4〜5発だけでも国土は完全に破壊されるであろうが、小型の潜水艦からの襲撃で、これらの原発が破壊されるだけでも、放射線被曝で忽ち国は機能不全になるであろう。

 軍備を増強して先制攻撃をすれば、当然反撃を受け戦争が始まるであろうが、そんな日本が勝てる国はないであろう。巨大になった中国との戦さなど、「あんな大きな国と戦争をしても何が勝てるものかね」の二の舞である。かってあれほど遅れていた中国にさえ、何処まで攻めて行っても勝てず、とうとうアメリカとの戦争になって負けてしまった歴史を思い出すべきである。

 仮に万一、外国軍が攻めて来ても、戦争は必ずしも勝たねばならないものではない。日本はすでに敗戦国で、今もアメリカの従属国ではないか。どんな戦いも、今や世界の注視の中にある。国は滅びても、国民は白旗を掲げて降伏する方が国土を保全し、生命生活を守ることになるかも知れない。最早、国民は命を賭してまで、最後まで戦うようなことはしないであろう。

 こう客観的に見てくると、賢明な方法は軍備増強よりも、平和憲法を守り外国に脅威をあたえず、外交に力を入れて戦争にならないように、共存共栄の善隣関係を築くことの方が遥かに安上がりで安全な方策であることに間違いなかろう。

 平和憲法を持ちながら、わざわざ大金をはたいて軍備を増強し、戦争に巻き込まれる恐れを高くする程、馬鹿げた政策はなかろう。外交に力を入れて積極的に平和を守るべきである。