日本の危険な道

 日本が敗戦によってアメリカの従属国になって、今年でもう77年が経過している。その間、まるで徳川幕府に従ったその時代の町人のように、アメリカに全面的に従いながらも、そのご機嫌を伺いながら、アメリカに押し付けられた平和憲法のお陰で、時には怒られ、嫌がらせをされたりしながらも、おおむね積極的な追随者として忠実に仕えながらも、何とか経済発展に成功し、多くのアメリカによる侵略戦争にも深入りせずに、ここまでやって来れた。

 ここまで来れば、たとえ国内からの反発があろうと、この対米従属関係は容易には変わらないであろう。しかし、別項でも書いたように、世界は確実に動いている。アメリカの資本主義の矛盾の拡大、世界の後発国の発展、ことに中国の発展、経済の巨大化、アメリカの数々の戦争の失敗などが続き、アメリカの一極支配が次第に揺らいできているのが世界の趨勢である。

世界の変化に気づくべきである。

 アメリカに追い詰められて、ロシアによるウクライナ戦争が起こったが、意外にも、アメリカによる世界中の対ロシアの経済封鎖などの呼びかけに、多くの国が同調せず、実行された経済封鎖もその効果を上げられず、逆に西欧諸国が物価上昇などの反動で困惑している状態であることもそのことを示唆している。

 ただし、アメリカの世界戦略の本命は今やヨーロッパではなくアジアであり、発展して来た中国をいかに抑えるかが今後の最大の課題である。ロシアの侵略は当然非難されるべきであるが、いつもそれと同時に言われる中国については、台湾問題と「既存の国際秩序に挑戦する」ことの非を唱えることしか出来ないのが現実である。

 台湾問題が盛んに引き合いに出され、日本はアメリカに言われるままに、沖縄や南西諸島の軍事化や軍備の増強、軍事予算の国家予算の2%への引き上げ、集団自衛権ばかりか、敵基地攻撃能力の保持さえ唱え、他国への先制攻撃まで可能にしようとしている。

 その上に、ウクライナ戦争に乗じて、日本の政治家の中には平和憲法を無視し、外交手段を抜きに、戦力を増強しなければ今にも日本が侵略されかねないとと煽る者も出て来ている。核兵器アメリカとの共有を叫ぶ輩さえ出現している。

 しかし、少し冷静に考えてみればすぐにわかることだが、日本をめぐる東アジアに現在本格的な戦争をしてまで、日本を攻撃、占領しようと言うような状況があるだろうか。中国やロシア、あるいは北朝鮮が侵略してくる状況は考えられないのではなかろうか。

 アメリカもそれを理解しているので、台湾問題を取り上げ、それと中国の既存の世界秩序への挑戦を挙げて非難しているのである。しかし、台湾問題は、アメリカも公式に認めているように、一つの中国の中の国内問題であり、アメリカも公式には台湾を武力で守るとは言えないのである。

 日米安保条約アメリカに守って貰えるだろうという甘い夢を持ち続けている人も多いかも知れないが、日米同盟は決してアメリカが最後まで日本を守ってくれるものではない。アメリカはウクライナで兵器を売って儲けても、軍隊は出さないことも参考になろう。

 日本はアメリカにとっては戦略的には前線基地に過ぎない。アメリカは日本の軍備を増強し、日本を前面に押し立てて戦わせようと考え、準備をしているのである。アメリカにとっては、前線基地は利用価値がある時には大いに利用するが、不利となればいつでも逃げ出せるのである。アメリカが安保条約があるからと言って、自国の大きな犠牲を払ってまで、自国から遠く離れた前線基地を死守することなど考えられないではないか。

 第二次世界大戦の時も、戦争初期にマッカサーは "I'll retuern"と言って、一旦フィリピンからアメリカへ逃げ帰ったではないか。アメリカは逃げられても、日本は逃げられない。基地を作った沖縄は再び「沖縄戦」を経験させらることにもなりかねない。沖縄のみならず、先制攻撃でもすれば、当然、日本全体が報復の対象となる。アメリカに乗せられて、景気良く軍備増強を図る人は、日本を滅ぼそうとしていることになることに気づかないのであろうか。

  武力を増強すれば相手も武力を増強する、中国はGDP一つ見ても日本より大きい、人口も

10倍近くもあるし。土地も広い。経済的にも先進技術にしても今や日本より先を行っている。中国が仮想敵国なら、日本はいくら頑張っても、軍備でも、実戦でも勝てないことは明らかである。かっての日中戦争でさえ勝てなかったことを教訓にすべきであろう。

 現在、中国やロシアが日本に攻め込んで来る可能性は殆ど考えられない。この機会にこそ軍備より平和外交、日中友好にどうして取り組まないのか。アメリカに楯突く必要はない。安保条約を日米平等な条約に改正し、日本が独立国家として外交力を駆使し、日中友好条約を深化させ、米中の仲介役を果たし、日本の、引いてはアジアの平和と安定、発展のために尽くすべきではなかろうか。

 アメリカは太平洋のの彼方の遠い国であるが、日本はアジア大陸のすぐ横の国である。しかも、日本はここ三十年来、発展が停滞し、人口は減少し、高齢化が進み、国民は貧困に陥っている。この国が軍事で周辺国を圧倒出來るわけもない。軍備に大金を回すより、国民の生活や福祉にお金を使った方が国民の幸福になるし、近隣国と敵対するよるより、友好関係を深め経済交流を密にする方が国民のためになる。

 軍備は軍備を呼び、決して国民の幸福につながらない。戦わねばならないような大きな矛盾は少なくとも現時点での東アジアには存在しない。無責任に日米同盟深化の進軍ラッパを吹く勇ましい人もいるが、それらに乗せられることなく、今こそ冷静に、この国の置かれた状況を真摯に考え、手遅れにならないうちに、少しづつでも、この国の進む方向を変えて行くことが必要であろう。

 これは私だけの心配でなく、今では多くの人が密かに心を痛めていることのようである。朝日新聞記者解説(2022.6.20.)にも書かれていたが、「ワシントンの政治家達が日本の国益やリスクを背負う立場にあるわけでないことをしっかり確かめておくことである。ウクライナに武器は送っても米軍は送らないこともよく考えておくことである。今後の日本の外交と安全保障にとって必要なことは米政権への全幅の信頼というナイーブな考え方ではなく、内向きになっていく米国を見すえたリアリズムが必要。それが日本が生き抜くための強かな戦略であろう」と言うのもあった。