代理戦争

 ロシアがウクライナ戦争を始める直前、ロシアが大軍をウクライナ国境近辺に展開していた時、アメリカのバイデン大統領が、ロシアが侵略すれば世界中からの反対が起こり重大なことになると警告したが、その時大統領がニッコリ微笑んでいた印象が今も残っている。

 ロシアのウクライナ侵略は世界の平和の脅威であり、決して許せないが、この戦争は単にロシアとウクライナの戦争ではない。戦前の歴史を振り返れば、アメリカによる約束破りのNATOの東方拡大が進み、本来ソ連の一部であったウクライナでまで、親露政権が倒され、反露の極右政権が出来るなど、追い詰められたロシアが、反撃に出たものであり、アメリカはNATOとともにウクライナに戦わせて、自分たちはそれを援助するという、いわば代理戦争に介入する構図になったものである。

 イラクアフガニスタン、中東などで、多くの犠牲を払いながらも目的を完遂出来なかったアメリカは、この代理戦争方式が世界大戦を回避し、自国の兵員を傷つけることなく、大量の武器の援助によって軍需産業に大儲けを保証する絶好の方策と見たのであろう。当然、これに味を占めて、今後、他の方面での侵略や争いにも、この方式を選ぶことになるであろうことは想像に難くない。

 このウクライナ戦争の始まった時点で、すでに識者による指摘があるが、今やアメリカの地政学的な最大の問題は対中国である。これまでのアメリカの一極支配を脅かしかねない中国の台頭に対しての、アメリカの差し当たりの手がかりはは台湾問題であろう。一つの中国を認めながらも、武器の援助などを進めている台湾を手がかりにして、何とか中国を揺さぶろうとしているのである。

 北朝鮮も手掛かりになるかもしれない。幸い、東アジアには日本や韓国という従属国がある。これらの国に代理戦争をさせれば一番良いのではないかとは誰しも思いつくことであろう。最近しきりに日本や韓国に軍備増強を呼びかけ、中国に現状変更を許さないと言って、緊張を押し上げてきていることはその現れであろう。

 それに乗せられて、せっかくの日中国交50周年記念の年であるにも関わらず、日本での対中国関係は悪化し、世論の対中感情も悪くなるし、政府やメディアも連日の如く、尖閣諸島台湾海峡の報道を見ない日がない。

 しかし、すぐ隣国の中国は経済的にも最大貿易相手国であるばかりでなく、文化的にも古代よりの結びつきも強く、中国無くしては日本は生きていけない関係にあることも知っておくべきである。それに、発展した中国は最早、日本が戦争をして勝てる相手ではないことも確かである。

 日本ではアメリカに乗せられて、台湾海峡南シナ海での中国の行動が問題だとされ、そのために軍備増強、敵基地攻撃能力まで必要とされ、軍備費の急増が議論され始めているが、台湾は中国の一部であり、現在、中国が周辺国を脅かそうとする気配はない。

 アメリカとの安保条約があり、日本がアメリカの属国であることを考えに入れると、恐ろしいことは、日米安保条約によりアメリカに従属した日本が、アメリカ軍が攻撃された場合にも、敵基地攻撃が行えるようになっていることである。再び日本の破滅を避けるためには、どのようなことがあっても、アメリカの代理戦争として、台湾問題などに巻き込まれることなどがないよう心掛けるべきであろう。