健康保険で安楽死?

 最近出た堤未果の「沈みゆく大国アメリカ」という本(集英社新書0763A)を読むと、鳴り物入りで始まった医療保険制度改革オバマケア」で国民皆保険制度が出来そうであるが、日本の健康保険制度と異なり、民間の保険会社に委託する形なので、市場原理の会社の経営も絡み、いろいろ不都合が生じているようである。

  オバマケアは実は共和党の次期大統領候補とも言われるロムニーマサチューセッツ州知事が知事時代に成立させた医療保険改革「ロムニーケア」を土台にしているようで、この本の帯の文章によると、「1%の超・富裕層」が仕掛けた”オバマケア”で、アメリカ医療は完全崩壊!」ということらしい。

 この本でもいろいろな問題が取り上げられているが、中でも驚いたのは制度からの医療費の支払いには「命に関わる医療行為から、改善の見込みが低い治療まで」独自の基準による優先順位がつけられており、癌の再発で申請した高額な癌治療薬は却下され、服用するなら自費でと言われ、代わりに安楽死薬なら保険適用が可能と知らされたという記事である。まさに貧乏人は死ねということである。

 これは海の向こうのアメリカの話だと聞き流す訳にはいかない。本の帯にも大きな字で「次なるターゲットは、日本だ!」と書かれている。TPPでも日本の健康保険制度はアメリカの保険会社などの標的にされていることもある。

 それよりも国内を見ても、少子高齢化社会を迎える日本では高齢者の医療費が高騰し、例えば健保組合連合会は今朝の新聞に全面広告を出し、高齢者の医療費を支えるサラリーマンの保険料が年々上昇し、このままでは国民皆保険制度が維持出来なくなることを訴えている。

 高齢者に病気が多いのは当然であるばかりか、医療や薬剤の発達によって個々のの医療費も高騰し止まることを知らない。そのため不治の病いの高齢者に対する過剰な医療も問題とされ、尊厳死安楽死などについても法的な許諾にまで話が進んでいます。

 やがてはこれまでの健康保険制度を利用した医療の規制や誘導の歴史から見ても、政府が同様な手段で過剰な医療を抑えるために不治の老人を安楽死尊厳死へ誘導する政策が取られないという保証ははないであろう。高額な保険外治療費と保険の認められる尊厳死安楽死のセットである。

 深沢七郎の「楢山節考」でも見られたように、この国では人は今でも右や左を見て行動する傾向があるので、無言の社会的圧力によって無駄な?医療を削って尊厳死安楽死へと誘導することが、倫理的には問題があるにしても、無慈悲な政府が経済的に有効な医療費対策として考える恐れが無きにしも非ずではなかろうか。