コロナが流行し、緊急事態宣言まで出ているので、感染も怖いし、長らく大阪までも出かけていないが、先日、久しぶりで映画を見に行った。宝塚近くのミニシアターで、大阪とは反対方向なので、電車も空いているし、朝一番なら、映画館もそれほど混んでもいないだろうと思い、女房と二人で出かけた。
映画は「いのちの停車場」と言うタイトルで、医師でもある作家の南杏子原作で、成島出の監督、吉永小百合主演、西田敏行、松坂桃李、広瀬すずといった豪華キャストの作品で、今評判の映画らしい。
劇場のコロナ対策は完全で、入場前に体温測定、手指消毒のあるのは当然、座席も以前は自由席だったのが、一人置きに座るようになっていて、全席座席指定になっていた。元々が100人程度しか入れない小劇場なので、これでは採算が取れないのではないかと此方が気になった。
換気も十分考えられているようだし、あれで、ロビーや上映前後の劇場内でのお喋りさえなければ、映画は黙って見るものだし、皆がマスクをしておれば、先ず感染の恐れもないので、映画館などもっと開けても良いのではなかろうか。
それはともあれ、映画が始まると、先ずは久しぶりに東映のロゴを見て懐かしく思った。この映画のストーリーは都会の大病院で、救急医療などに携わっていた吉永小百合演じる医師が病院を辞めて、故郷の金沢に戻り、そこで古くから開業していた今は車椅子生活の老医師西田敏行のまほろば診療所に勤め、訪問医療にたずさわると言う筋書きである。
金沢の古い町で、不治の病に犯された人たちの、病や老齢から死へと向かう色々なケースでの、それぞれの人たちの生き方、死に方、それへの関わり方が描かれていて、見る人にも、自分の生死をも考えさせてくれる医療映画と言えるであろう。
訪問診療なので、対象になる患者の方は、癌末期の終末期の人や老人、小児がんの子供などになるが、吉永小百合の医師も静かに話を聞く態度で、広瀬すずの明るいナース役もよく、それに吉永を慕ってSUVでやって来た若い医学生が絡んで物語を作りあげている。背景の音楽も良く、映像もなかなか凝っており、所々に挿入された金沢の景色なども美しく、それらがマッチして、全体として和やかな雰囲気が醸し出され、人々に静かに自分の生や死についても考えさせることに成功していたように思われた。
病のためにただ食べて寝ているだけのような生活は嫌だと言う芸妓さん、ゴミ屋敷のようになった家で病妻を抱えて暮らす老人、中央官庁の幹部だったが、癌に犯され末期になって故郷へ戻ってきた人、昔近所に住んでいた女性で、癌になり抗がん剤の治療の相談に昔馴染みの医師に相談に訪れた女性、小児がんで抗がん剤の治療を受けるも思わしくない子供、絵描きで暮らしてきたが、今は独り住まいで、やがて大腿骨骨折で動けなくなり、おまけに中枢性の疼痛に苦しめられ、全ての治療も効かず、安楽死をも考えざるを得ないところまで追い詰められた医師の父親など。色々なケースが問題になって来る。
それらを松坂演じる医学生と、広瀬のナースが明るい演技で繋いで、全体を纏まった温かい物語にしてくれているのが、この映画を成功に導いてくれているのであろう。
ただ、私の好みから言えば、在宅医療の話だから、いろいろ多彩なケースがあって当然だが、少しケースを広げ過ぎて底が浅くなってしまっているのが気になった。生と死、殊に終末期から死へ向かう問題を取り上げているのだから、少しケースを絞ってでも、もう少し、個々の例での患者や医療者、家族など周囲の人たちの心の動きや態度を掘り下げるようにしてもらったほうが良かったのではないかと思われた。
勿論、全体としては、余韻の残る優れた作品で、評判になるのも当然であろうと思われた映画である。