96歳はこんなものか

 65歳ないし70歳頃から老人と呼ばれる様になるのが一般的であろうが、歳をとると個人差が大きくなるものである。70歳ではまだ多くの人は元気で、中には元気溌剌でまだ若い者には負けないぞと体力を誇示する人さえいるが、中にはもう体のあちこちが悪くて疲れ易く、半病人でとても一人前の仕事など無理だという人もいる。

 私も70歳代はまだ元気で、仕事も普通に続けていたが、やはり若い時に比べると、老化は避けられず、次第に無理が効かなくなってくるのを感じたものであった。その頃、「海外旅行は今のうちに楽しんどきなさいよ。70代と80代とは違うから」と言われたことがあったが、80代もあちこち海外にも行っていたが、あまり無理なスケジュールは自然と避ける様になっていった。

 87歳の時に心筋梗塞を起こして入院したが、幸い軽くてすみ、半年もすると元と同じ様に活動できる様になった。パートの仕事も続けられた。ただ、普通にしている様でも、若い時と違い、次第に疲れ易い様になってきた。

 また、その頃から平衡感覚が悪くなってきたのか、時々転ぶ様になり、ステッキを愛用する様になった。急な崖を登ったり降ったりするのが怖くなってきて、自然と大事を取る様になってきた。それでも80代はまだあちこち行きたいと思へば、何処にでも出かけられた。友人たちとの集まりなども楽しんでいた。

 90代になっても相変わらず元気だと思っていたが、91歳の秋、旅行の途中で間歇性跛行となって予定を変更して帰れねばならないことが起き、治るまで8ヶ月ぐらいかかった。その後は、丁度コロナの流行で、自然と行動が制限されたこともあったが、好奇心はあっても体がついていかなくなってきて、次第に行動範囲が狭められてきた。

「よいしょ、どっこいしょ」といった掛け声が自然にに出てくるようになり、それまで気にも留めなかった急な階段を上がるのが気になるようになったり、急いで電車に乗ったりすると息が弾み、」動悸が止まるのに時間がかかる様になった。

 足もだるく、歩くスピードも落ちて、女性や子供にまで追い抜かされるようになる。それに疲れ易く、長道では途中休憩を取らねばならいことが多くなり、体がふらついたり、足がもたつきやすくなり、安全のため、ステッキや歩行器を常用する様になった。

 それでも昨年の終わりまでは歩行器を使って箕面の滝まで往復5.6キロの山道を休み休みにしても、毎月欠かさずに行っていたが、以前と比べれば歩く速度が遅くなり、途中で休む頻度も増えた。

 ところが、今年の正月末に免疫性血小板減少性紫斑病に取り憑かれ、皮膚は紫斑や小出血斑だらけで、貧血も進み、遂には日常生活もままならなくなり、入院させられ、加療で回復したとはいえ、未だ回復途中で、行動範囲もずっと狭まってしまった。

 それに、歳を取ると感覚器官も衰え、目は片方で見ている様なものだし、耳は聞こえ難い。匂いも判らなくなってしまったが、これらは不便であっても嘆くものではなく、変化をそれなりに楽しんでいる。ただ仲の良かった友人が皆先にいってしまい、誰もいなくなったのが寂しい。

 今もよく眠れるし、食事は進むし、家の中や庭、近隣の行動は、ヨタヨタであっても、普通に出来る。まあまあ毎日快適な日を送れているので、96歳ではこんなものかと思って感謝し、それなりに毎日を楽しんでいる。