楽しい80歳代、寂しい90歳代

 九十歳を過ぎる頃まではあまり気が付かなかったが、長生きをした人たちにとっては、八十歳代は人生の中でも一番リラックスし、楽しい時代だったのではなかろうか。

 がんや生活習慣病などで早くこの世を去ってしまった人たちは別として、八十歳を超えても元気でいる人達は、殆どがあらかた仕事もやめて、ゆっくりした隠居生活を始めている人が大半であろう。

 こういう人たちはまだ健康で、そこそこ体力もあり、時間を持て余すぐらい生活のゆとりもある。そこに、まだ昔からの朋友たちも何人かはいるし、その殆どが仕事をやめたり軽減し、仕事のストレスからも解放され、精神的にも肉体的にもゆとりが出来る。必然的に若い頃からの仲間が集まり、公然と古くからの友情を温めることになる。

 もうお互いのかっての利害関係や心のわだかまりもなくなり、お互いに心を開いて、旧知を温め、定期的に集まったり、一緒に行動して何処かへ行ったり 趣味を共有したりすることになる。人生のおまけの様な楽しいひと時である。”八十歳代万歳”とでも言うべき長寿者たちの楽しい日々が続くことになる。

 ただし、それも長くは続かない、人生八十年が平均寿命である。年を経る毎にひとり去り、二人逝って、次第に集まれる人数も減り、終いには誰もいなくなって、会合も自然消滅していくことになる。こうして九十歳代に移行していくことになる。

 九十歳代になると最早親しかった友人たちも皆死んでいなくなり。楽しかった者たちの集まりも出来なくなるばかりでなく、己の体力の衰えも感じさせられる様になる。もう一人では遠くまでは行けなくなり、行動範囲も狭められる。それに友人も皆いなくなると親しい人に会う楽しみもなくなり、無駄話で気分転換する様な機会も少なくなる。

 外出も昔の様にはままならず、嫌でも孤独を感じさせられる。八十歳代が懐かしく思い出されることになる。一人でいると、そろそろ自分の終焉も考えておかねばならないなどと思う様になる。九十歳代の冷徹な孤独がひたひたと押し寄せてくるのを感じる。