人も町も変わってしまった

 ずっと日本に住んでいるので日々出会う人々は殆どが日本人である。ことに近隣で出会う人たちはいつも変わらぬ同じような人達だと思ってたが、ふと気がついてみると、いつの間にか今の日本人は昔の日本人とはすっかり変わってしまっているのに気がつく。

 つい昨日も家から出て散歩に行こうとすると、向こうから夫婦が揃ってジョギングして走ってくるのに出くわした。はて今日は休日だったかなと思ったが、まだ金曜日である。それから買い物などをして帰ってこようとすると、また別の揃いの黒装束をしたジョギング中のカプルに出くわした。

 まだ冬なのに平日にジョギングしている夫婦を二組も見るとは驚きであったが、気がついたのは、二組とも男の方がやたら背が高いことであった。もともと日本人は背が低い人が多く、身長160センチの私でも極端に低い方ではなかった。昔なら電車の中で見ていて、ドアに頭がつかえるような人を見ると「へー高いなあ」と驚いたものであったが、最近はそんな男性はいくらでもいるし、女性でもつかえんばかりの人さえ多くなっている。

 それに、昔なら夫婦で一緒にジョギングしている人など先ず見なかったが、最近は週末に川辺の遊歩道に行くと、必ずと言って良いぐらい誰かが走っているし、カプルも混ざっている。さらには遊歩道を走るサイクリングも多い。グループを組むなり単独で次から次へとと走っていく。橋の近くの狭い部分の道など歩いていると、猛烈なスピードで迫ってくる自転車に危険を感じることさえある。

 しかも、ジョギングにしてもサイクリングにしても、今はそれなりに専用の服装をしなければいけないかのように外見を整えるのが特徴で、普通の普段着のままでは、走ったりサイクリンしてはいけないような雰囲気である。それにあちこちにスポーツセンターができて、機械で体を動かしている人も多い。

 これらは比較的若い人達のことであるが、今度は住宅街に入ってみると、そこはもうすっかり老人の街と言っても良い。ショッピングカートやシルバーカーを押して歩いている人が続いているかと思えば、その後から杖をついた老人が行く。その後を今度は歩行車が続き、さらにその後を腰の曲がった老婆が両手に買い物を入れた袋をぶら下げて、ヨボヨボと歩いているといった感じである。

 また、犬の散歩をしている人も増え、犬友達ができて路上で話し込んでる人もいれば、ペットの子犬を赤ん坊のように大事に抱えている。乳母車に乗せた犬を推している人もいる。幼児の施設外活動で保育員に付き添われた幼児の列に出くわすこともあるが、少子化のためか、園児や学童を見かけることは少ない。

 この街の人口は今はまだ保たれてはいるようだが、少子高齢化ですっかり老人の街になってしまい、働き盛りの人たちが仕事に出たしまった後は、子供の声も聞こえず、静まり返っている。そんな街で出会う人々もいつの間にか昔とはすっかり変わってしまっている。

 人々の行動パターンも昔とは違っているし、背格好や顔立ちまでが、もう昔の日本人からは大分ずれてきている。もう戦後も長くなるので、今では老人までが背の高い人が増え、太った人も多くなっている。顔貌も昔の日本人に多かった鼻ぺちゃで、平べったい”おかめ顔”の人が減り、鼻が高くて彫りの深い顔立ちの人たちが優勢になってきている。

 時代劇をみる時などは、演じる俳優などの人物像などは、少し割引いて昔の人物像を想像した方が良いのかも知れない。