百歳以上(Centenarians)

 厚労省の発表によると、今年の日本の百歳以上の人の人口は86,511人だそうで、昨年より6060人増え、人口10万人あたり68.54人に当たるそうである。そのうち女性が88%、最高齢は女性の118歳ということだそうである。

 100歳以上の人たちはセンテナリアンなどと言われるが、1963年には僅か153人であったものが、1998年には1万人を超え、以後も連続して増加し、ここ2年間だけでも1万5千人増加しているそうである。107歳の双子の女性もおられるそうである。

 昔だったら誰かが100歳と聞けば「へー百歳」とびっくりしたものだったが、最近は日常の会話でも「誰それさんのお母さんが105歳でまで元気だ」とか「誰それさんはもう103歳なのにまだ一人で元気に暮らしてはる」だのというような話を普通に聞くようになっている。

 まさに日本は超高齢者世界のトップランナーになっているが、現実世界でも、本当に年寄り世界になったものだなと思わせることばかりである。私の近くでも、朝早くからの会社や学校へ行く若い人達が出払った後は、メインストリートを歩いても、杖をついたおじいさんの後を、手押し車を押したおばあさんが通り、その後を、またおじいさんがゆっくりヨタヨタと歩いて行くと行った姿が当たり前の風景になってしまっている。

 今朝も散歩に家を出て、角を曲がろうとした時に、前をシルバーカーを押したおばあさんがゆっくりもたもた歩いているので、追い越して曲がろうとしたら、曲がり角の向こうから来た自転車に乗った白髪のお婆さんが、自転車を降りて立ち止まったところであった。皆ゆっくりなので心配はなかったが、若い者同士だったら三重衝突にでもなるところだったかも知れない。皆で会釈してお互いに道を譲り合ったものだったが、老人世界ならではの光景であった。

 しかし、100歳を超える人がこれだけ増えれば当然のことながら、我々よりももっと若い老人も、その何倍も多くなるわけである。朝早く近くの猪名川の堤防の散歩道をよく散策するのだが、そこはまだ6時頃の夜が明けやらぬ頃から、堤防を歩いたり走ったり、犬の散歩をさせている人たちで結構賑わっている。サイクリングで出勤でもする人やジョッギングに余念のない若い人もいるが、大半は60代70代の元気な前期高齢者の人たちである。

 この年代の老人は、仕事のストレスから解放されて時間はたっぷりあるし、まだまだ体も衰えていない、少しは体を鍛えて長生きしようと思うのかも知れないが、元気よくさっさと歩いて我々を追い抜いて行く。立ち止まってストレッチ体操をしている人や、わざと後ろ向きに歩いている人もいる。老化を少しでも防ごうというのか、こうした人たちは見るからに元気一杯で、皆100歳までも生きそうである。これらの人たちが皆そうなら先が思いやられる。

 こういう人たちを見ていると、折角長年の労働から解放されてやれやれと思っている人たちには思いもかけぬ残酷なことだが、政治家の中には、働き手の少なくなる時に、この元気な老人を使わぬ手はない、何とかとかして働かせてやろうと思って、年金や老人手当を減らそうと企む輩が出てきても不思議ではないだろう。現にこういった老人の4分の1は既に働いているらしい。

 皆が長寿になることは素晴らしいことだが、仮に百歳以上の人ばかりの街が出来たりしたらどうなることだろう。警官や消防士、電車やバスの運転手、市長さんから議員さんまでが皆100歳を超えている人ばかりだと考えたら、弱者の世話で大変だろうが、案外静かで平和な街になるかも知れない。

 とはいえ、現実には、中国などでは人口が多いから、やがては4億か5億の人が老人になるそうである。当然寝たきりのような人も、認知症の人も増えるに違いない。病人も多く、元気な老人は少ない。想像して見ていただきたい。どんな世界になることだろう。

 ずっと以前に、少子高齢化の将来がはっきりしてきた頃に考えた事があった。今はまだ老人保険や介護制度などで老人は守られているが、少子高齢化が年とともに進むと、やがては若者の負担が増えて、老人へのサービスはどうしても落ち、老人が次第に住みにくい世にならざるを得ないであろう。 

 そうすると何歳ぐらいまでで生きるのが一番得であろうかと想像して見たことがあったが、その時の結論は、確か85歳ぐらいだったような気がする。その頃までに死ぬのが賢明という事であったが、いつしかもうその年を既に超えてしまっている。これから先は次第に老人の生きづらい世の中になっていくのではなかろうか。

 と言っても、死ぬ時期は天命に任せるより仕方がない。100歳を超えてなお生きているかも知れないし、ある時、何処かでぽっくりいくかも知れない。脊椎管狭窄症をやってからすっかり歩くのが遅くなって、杖をつかないと不安であるし、もはや遠道は途中で休まないと、昔のようには歩けない。

 それでもまあ元気で暮らせているから良いようなものだが、多くの超高齢者は寝たきりであったり、車椅子生活であったりする人も多く、生きているといっても100歳を超えて元気で普通の生活の出来ている人は10分の1ぐらいしかいないようである。

 私も来年になると数え年で95歳になる。何処まで行けるかわからないが、100歳まで生きるとしたら、何とか独り立ちで暮らせるのを維持した上でのことにして貰いたいものである。それしても、周りを見ても親しい仲間が皆死んでしまって孤独を感じざるを得ないのがこの年齢である。孤独に徹して、自分なりに生ある限り、楽しみを持って自然体で生きて行くよりないであろう。