トイレのスリッパ

 家によって異なるだろうが、今もトイレにスリッパを用意している家庭が多いようである。写真の様に我が家でもお客のある時にはマットの上にスリッパを用意している。

 今の様に何処の家でもトイレが屋内にあり、洋式便器に水洗は勿論、ウオシュレットなどまで完備し、マットも敷かれているのに、その上にスリッパなど使う必要があるのだろうか。

 昔はトイレは厠とか便所と言われ、家の外にあったり、家の中でも片隅の一番端に隠された様にあり、寒くて薄暗く、汲み取り式のトイレではハエが舞い、不浄の場所とされていた。仕方がないので入るが、出来るだけ早く用を済ませて飛び出したい所であった。そんな場所なので、足も汚れてはいけないというので便所用のスリッパや下駄が利用されることが多かった。

 当時は、料理屋や旅館など清潔を売り物にしている様な所でのトイレは、特に清潔を保たなければならないので、多くは建物の隅にあり、廊下より一段低いタイル張りの床で、絶えず水を流して掃除して清潔を保つ様にしていた所が多かった。

 そういう所では、トイレの入り口にスリッパやつっかけ、下駄などを置いて利用してもらう様になっていた。トイレは不潔な場所だから、そこ専用の履物を利用して貰い、他の場所と区別しようという考え方であった。そんなわけで、昔は普通少なくともお客をトイレに素足で入れる様なことは考えられなかった。

 そんなところから、時代が変わり、生活もトイレの事情もすっかり変わっても、長年の習慣や伝統はそのまま続きやすいもので、その名残として、スリッパが以前のまま生き続けているのであろう。

 今やお家のトイレは快適な場所となり、トイレで新聞や本を読んで時間を過ごしたり、考え事をしたりするのに最適の場所とさえなっているようだが、古くからの習慣は今もその痕跡を残しているのであろう。

 なお付け加えれば、トイレばかりでなく、個人の住宅でも、よく玄関に客用のスリッパを準備しているのを見るが、木の廊下やフローリングが多い家などは別として、カーペットを敷き詰めたいたり、畳の部屋に客用のスリッパが必要かどうかも疑問である。