我が家のダグウッド

 ダグウッドとはハナミズキのことである。昔、日本からポトマックリバーの桜の苗木を送った返礼として、アメリカから送られて来たのが日本での始まりで、アメリカ原産でアメリヤマボウシともいうらしい。

 最近では日本でも、あちこちで、街路樹であったり、庭木であったりして、普通に見られるようになったが、私の若い頃には、ダグウッドといえば、戦後に新聞に連載されていたアメリカの漫画が有名であっったが、木については日本ではあまり知られていなかった。

 私がダグウッドを初めて見たのは、1961年アメリカへ行った時のことであった。桜と見間違うようなピンクの花が満開の大きな木がボスの家の庭の真ん中にドント立っており、周囲に枝を伸ばした姿が衆目を集めていた。

 桜とよく似た感じがして思わず何という木なのかと興味が湧き、ダグウッドという名を教えてもらったのが初めであった。漫画のダグウッドをよく知っていたので、名前はすぐに覚え、いっそう親しみを覚えるようになったものであった。

 そんな経験があったものだから、親が死んで古い家を建て直す時に、従来からの庭とは別に、芝生の庭の真ん中に赤白一本ずつのダグウッドの若木を植え、のびのびと育ててやろうと思った。例年の植木屋さんの剪定にも手を入れてもらわず、自然のままに成長させた。

 白い花の方はやがて枯れてしまったが、ピンクの花の方はスクスクと育ち、やがて満開の花を咲かせるようになり、当時はまだ珍しかったので、隣家の人にまでも「楽しませてもらっている」との言葉をもらったほどになり、密かな我が家の自慢の木となっていった。

 桜の花より少し遅れて咲き、4月終わりか5月始めまで咲いている。ゴールデンウイークに旅行に行って帰って来た時に、まだ少しでも残っていてくれないかと思ったりしたものであった。

 花は桜と似ているとも言えるが、こちらは桜と違って花は長らく枝先から離れず長持ちするし、落ちる時にも花びらが散るのではなく、元からポツリと落ちる感じである。durability(永続性、耐久性)というのがダグウッドの花言葉らしいが、逆境に耐えて花を咲かせるというイメージ、逆境に耐える愛という意味も持っているとかである。

 しかし年月は争い得ないものである。いつしかこのダグウッドも持ち主同様、老いさらばえて来て、かっては圧倒的に周囲を威圧せんばかりに咲いていた花も、今では寂しくちらほらと申し訳程度にしか咲かなくなってしまった。

 最近増えて来た近隣の家で眺められる満開のダグウドに比べると、その勢いの違いに驚かされる。持ち主と共に歳をとって衰え、今では寂しく昔の栄華を思い出させるだけになってしまっている。万物の栄枯盛衰を表しているものかと静かに眺めるよりないこの頃である。