黒いマスク

 コロナが落ち着いて来て、年が変わっても巷のマスク姿は一向に衰えそうにない。落ち着いたと言っても、コロナも感染者が減って軽くなったとはいえ、まだまだ続いている。マスクも長い間にもう習慣になっている人も多く、冬なのでマスクをしていた方が暖かいからということもあるからであろうか。女性では化粧しなくても良いからという人もいる様である。 

 初めの頃は白一色の当座用の様なマスクばかりであったが、最近になると、ことに女性では少しおしゃれな形や色、模様のついたマスクをつけている人も多く見られる様になった。そういう街で見かける光景を見ていると、つい私がまだ子供の頃にも同じ様にマスクの流行った時代のあったことを思い出した。

 私がまだ幼稚園の頃だったであろうか、昭和の初め頃である。大正時代、第一次世界大戦時に、丁度今回のコロナの様に、世界中で猛威を振るったスペイン風、すなわちインフルエンザが落ち着いた後も、冬になるとインフルエンザの流行が見られることが多かったので、今と同様マスクが推奨されていたのであろう。

 そんなことで、都会では子供たちもマスクをさせらることが多かった様である。マスクをすると多少息苦しい様な感じがして嫌だったが、子供心にはいつもと違う行動が面白かったので、物珍しげに喜んでマスクをして外出したことを覚えている。

 ただ今と違うのはマスクであった。当時流行っていたマスクは、黒い少し厚めのネルのような生地で出来た三角形に近い形をしたもので、それを折りたたむ様にして顔面に装着し端についたゴムを耳にかけて固定する様になっていた。その内側に折りたたんだガーゼを入れていた様な気がする。また外側の黒い生地の鼻の両側にあたる部分に二つ三つ小さな穴が開けられ輪止めの金属が施されていた。

 そんな黒いマスク姿が目だったが、その頃も皆がしているわけでなく、黒いマスクをしている人が多かった様な印象であった。時代は変わったが、人々の感染症に対する気分は同じ様なものだったのではなかろうか。

註:もう昔のことなので記憶も曖昧だが、このマスクはおおよそこんな感じだった様な気がする。