歳を取るとともにますます早寝早起きになり、4時にはもう起きている。それに今年の夏は単に例年より暑いと言うのではなく、国連事務総長も「地球が沸騰している」と言ったごとくに、これまでで一番暑い夏となった。九月になっても連日、三十五度を超える猛烈な暑さの日が続いている。熱中症警戒情報まで続いている。老人は昼間は外へ出かけず、家にいる方が安全である。
そんなことで、毎日朝早くに散歩することにしている、しかし、九月も半ばを過ぎると日の出の時間も遅くなり、5時半を過ぎないと、まだ夜で外へ出るには足元がおぼつかない。従ってこの頃は朝食を済ませ、夏よりは少し遅い目に家を出ることになる。
朝の散歩の醍醐味は何と言っても朝焼けの雄大な景色である。日の出よりは少し早い時刻の空は朝焼けに染まるが、一日として同じ朝はない。刻々と変わる空と雲との雄大なドラマを見せてくれる。西の空まで空中を赤く染めて日の出を待つこともあれば、東にたなびく濃い雲の下を黄金に染めて陽が上がってくることもある。
天空では白い雲に黒い雲、それに赤く染まった雲が重なり合って、雄大な絵を描きながら、ゆっくりと動き、微妙に変わっていく様はただぼんやり見ているだけでも心を惹かれる。日頃の細々とした生活とはすっかり切り離されたような天上の世界につい引き込まれてしまう。
散歩のコースは一応家を出る前に決めてはいるが、そんな早朝の空を見ながら今日はどこへ行こうか、思い直して違った道へ進むこともある。
一番よく行くのは近くの商店街を抜けて、五月山の麓にある公園や緑のセンターへ行ったり、日にによっては眺望のよい古墳の頂上へ登ったりすることもあるが、一番多いのは猪名川の河原を上流に向かったり、下流に行ったりするコースであろうか。
川のほとりは川風があって涼しいし、眺望が開けるので気持ちが良い。堤防の遊歩道には
朝が早くても結構ぼつぼつと人が歩いているものである。週末は早くからサイクリングやジョギングの人たちを多く見かけるが、平日は殆ど老人の散歩である、
まだ70〜80代の元気な老人が颯爽と歩いているのも見るが、杖をついたり、ダブルスティックスで歩いている老人も多い。中には女房の肩に手を置いて歩いている人もいるし、シルバーカーを押している人もいる。夫婦で連れ立って歩いている人が多いが、一人で歩いている人もいる。女性では2−3人が連れ立って話しながら歩いている例が多い。
出会う人ごとに出来るだけ「おはようございます」と声をかけるようにしているが、その反応もまた面白い。間をおかずに返事の返ってくる人もいれば、慌てて返事する人、悪そうに頭だけ下げる人などさまざまである。中には耳が聞こえなかったり、音楽を聴いていて挨拶が聞こえなかった人もいる。一般に女性の方が愛想がいい。
そんな中で、先日まだ薄暗い頃の商店街であったが、シルバーカーのようなものを押した大柄な老人と出会ったので声をかけたら、操行を崩さんばかりに満面の笑顔で答えるではないか。予期しなかった反応に、びっくりして手を振ったら、向こうもわざわざ手をあげて振って答えてくれた。
どうも、こちらがトライウオーカーなる歩行補助器を使っているので、てっきり同じ仲間と判じてくれたのであろう。身体不自由な老人の思わぬ朝早の出会いに、同病愛憐れむ感情に押されたものであろうか。
きっと自分と同じような歩行器に頼って歩かねばならない孤独な老人が、偶然、朝早い商店街でばったりと同じ仲間に出くわして挨拶されたのが余程嬉しかったのであろう。
犬も当たれば棒に当たると言われるが、散歩をして外をぶらついていると、思わぬ色々なことに出くわすのも楽しみの一つである。