トライウオーカーの奨め

 90歳も過ぎると歩くのが遅くなり疲れやすくなるのは仕方のないことだろうか。

 若い頃からよく歩いていた私も、歩いていても女性や、子供にも追い抜かれるようななるし、昔なら何でもなかった距離を行くにも疲れやすくなり、途中で休まねばならないことが多くなった。

 その上、年と共に転倒し易くなったので、杖を使っていたが、それでも転倒するもので、この春には、転倒した際に、杖が口吻にあたって、入れ歯が割れる事故を起こした。

 そこで、以前に脊柱管狭窄症になった時に使ったことのある、老人がよく使っている4輪の手押し車(いわゆるシルバーカー)を出して来て使うことにしたが、車輪が小さいので、道の段差にひっかかかりやすいし、砂利道などでは円滑に進めない。坂道も登りは良いが下りは使い難い。

 何かもう少し便利なものはないかなと探していた時に、たまたま見つけたのがこの「トライウオーカー」なるものである。何でも、チェッコに行った人が、その地で老人たちが3輪の歩行補助具を使っているのを見て、日本でも作ってみたということであった。

 これは名前からもわかるように、3輪車で車輪も多少大きく、後ろの2輪の間に体が入るので、前屈みにならずに、体を真っ直ぐにしたまま車を押せるので、移動が楽で、いわば自転車に乗っているのに似た感じで進むことが出来るので気持ちが良い。

 前輪は独立しているので小回りりが効くし、ブレーキにいつも手を添えているので、急の停止も楽である。それに3輪を折りたためるので、駐輪に場所を取らないし、軽いので脇に抱えて運ぶことも出来る。タクシーも後部のトランクに入れてもらわなくても、車内に持って乗ることも出来る。駐輪の時には駐輪用のブレーキで固定出来るのも嬉しい。

 早速Amazonで購入して使い始めたが、とても快適である。車が自然に回転し、体がそれについていくような感じで、両手でも体重の一部を支えることになるので体が軽くなり、車の回転とともの体が自然に軽く前方に進むことになるので疲れ難い。杖歩行と違いスイスイと歩ける感じがして、疲れずに休を入れなくとも長距離歩ける。

 坂道も登りはシルバーカーなどと同じ感じで、杖よりずっと楽だし、下りも三輪なので、体を前の方に寄せるようにして、体がウオーカーを支えるような感じにして降れば、軽い坂などでは全くブレーキを使わずに、大股で気持ちよく下ることが出来る。コマの小さい4輪のシルバーカーとは大いに違う点である。

 また街中での利用法としては、エレベーターは登りは歩行時と同じようにエレベーターに乗せればそのまま行くが、下りは危ないので、折り畳んで脇に置き、レールに捕まるようにすれば問題はないであろう。階段は、上り下りとも、折り畳んで脇に抱え、5kgなので、手すりにも頼れば、私のような小柄な力のない老人でもそれほど苦労しない。

 階段で「持ちましょうか」と声をかけてくれた親切な青年がいたが、私が断ったのを見て、娘が「親切な人には断らずに、持ってもらった方が相手の親切に答えることのなるのでは」と言いました。

 日本では、まだこの「トライウオーカー」はまだポピュラーではないので、足が悪い人用の歩行器と思う人が多いようで、こちらを身障者のように思う人もあるようで、時に「頑張って下さいね」などと声ををかけられることがあるし、そういったイメージから格好が悪いとして忌み嫌う人もいるようだが、老人の生活内容は格好よりも実質である。

 杖歩行の時と「トライウオーカー」を使うようになってからと、どれだけ違うことだろうか。私の狭い経験だけから見ても、もう半ば諦めかけていた箕面の駅から滝まで5.6kmの”月参り”も、スイスイと行けるようになり、見事復活させることが出来た。それも、杖の場合には途中で何回か休まなければならなかったのが、1~2回休むだけで行けるようになったりと、その効果は大きい。

 強いて注文を付けるとすれば、全重量をもう少し軽くして、階段の昇降時などに脇に抱えやすいようにすること、前輪を心持ち大きくして段差につまずいたり、砂利道などでの進行をスムースにすることぐらいであろうか。

 この「トライウオーカー」は思いの外の優れものである。これは決して福祉用品ではなく、手足などに障害がなく健康だが、老いのために弱った手足の人たち用のものである。世間に多い、一応元気だが、杖歩行でヨタヨタ歩いているような老人たちは、是非一度この「トライウオーカー」を試みられては如何であろうか。きっとさっさと歩けて若返ったような気になられるに違いない。