ロボットが運んでくる食堂

 コロナの流行が続いて食堂などの利用が減り、食堂などでも、入り口での手指消毒や体温測定、隔離のためのプラスチックの仕切り板などが目についていたが、そんな食堂にとっての冬の時代も漸く終わり、コロナも法律上も感染症法の5類になり、食堂にも客が戻るようになって来た。しかし、どんな変化も決して元通りになるものではなく、歴史は嫌でも変わって行くものである。

 コロナの流行時と、私が仕事を辞めた時期が重なったこともあり、私もコロナの間、食堂を利用する機会もずっと減ってしまっていたが、コロナの間に世間のレストランやその他の食堂も大分変わってしまったようである。

 ITの時代であり、コロナによって、職場の仕事もZoomなどに置き換わったりして、会社に出勤しなくても出来る仕事が増えたようだが、レストラン業界などでも、人手不足対策や、合理化のため、ITの導入などが急速に進んで来ているようである。

 今春だったか、大阪の美術館に行った時に食堂へ行ったら、テーブルにはメニュー表など置いてなく、パソコンの端末があるだけで、そこから注文するようになっていた。幸い娘と一緒だったから良かったが、私一人だったらまごついて、注文するだけでも時間がかかってしまったことであっただろう。

 またその少しばかり後のことであった気がするが、隣町の駅前のビルにチェーンの回転寿司屋が新たに開店したので食べに行った。この時は全て機械化が売り物だったので、覚悟はして行ったが、まさに今流行りのオール IT化の店になっていた。

 入り口で、予め電話で受け取った予約番号を機械に入れたら、新しい番号札を出してくれた。それに書かれた番号の部屋に行くこととなる。席に着いたら、そこにも端末が置いてあり、それで注文すると、寿司がレールで運ばれて来るようになっていた。

 食べ終わったら、出口の会計に行き、そこでもまた機械相手に清算するようになっていた。店員さんもいるが、初めから終わりまで会話一つ交わすこともない。出口で「ありがとうございました」と言われただけで、外へ出ることになっていた。

 そして今度は家の近くのチェーンの大衆食堂である。以前からそこにあることは知っていたが、これまでに馴染みのないチェーン店なので、近くを通っても見向きもせず、全く行ったことがなかった。ところが、たまたまイギリスから戻ってきた孫が行こうというので、初めて入ってみた。

 そこも案の定、オールITで、全てのやり取りが人手なしで出来、各テーブルの上に端末が置いてあり、それで注文するのだが、ここでは注文した食品を運んで来るのも、ロボットの運び屋になっていた。それは何段かの棚のある立体的な構造で、車のついた自走車になっており、そこに注文した食品を載せて、調理場から通路を曲がって、それぞれの客席まで間違いなく注文通りに運んで来るのである。

 客が食品を全て取り終わるまでじっと停止し、終わって客がボタンを押すと、また調理場まで自動で帰って行くようになっている。レシートまで乗せており、食べ終わったら、それを会計の機械に入れて清算することになっている。

 こうしてここも初めから終わりまで全く人手を介さずに、ことが進むようになっている。イギリスから来た孫たちも初めて見たもののようであった。空港で掃除ロボットがあちこち自動で動いて掃除をしているのは見たが、食品を運んでくるロボットは初めてだと言って興味深そうに写真を撮っていた。

 中国がこうしたロボットは一番進んでいるようなので、あちこちで見られるのかも知れないが、日本ではまだ少ないのではなかろうか。今後の普及とともに、もっといろいろな形のロボットが食事を運んでくるようになるのではなかろうか。

 楽しみであるが、使い慣れていないと当分はまごつくことも多いであろう。誰かが新聞の投書欄に食品を運んで来たロボットがいつまでも帰らないとか書いていたが、ボタンを押さないと帰らないようにしておかないと、客が全部取り終わらないうちに動き出しては大変である。

 今後は働く人がますます減るので、ロボットの活躍もいろいろな面で進むだろうから、どんなロボットが身近に現れるか楽しみであるが、老人たちはきっとまごつかせられることになるであろう。