全自動回転寿司屋

 コロナの流行で回転鮨屋さんも大打撃を受け、ひと頃は回転して寿司の回るカウンターを閉めて、従来風の座席に戻して営業している店もあったが、効率が良く外国にまで真似られている合理的な方策を見捨てることは出来ない。コロナの流行が長引くと共に、それぞれに色々と工夫して、今では何処のチェーンの回転寿司屋も、以前のように営業ているようである。

 もともとがベルトコンベアで人手を減らし、合理化して出来た回転寿司屋である。今度はIT化の波に乗って、接客や会計システムの合理化を図り、徹底的に人件費の合理化などをも図っているようである。その流れで、最近、我が家の近くのターミナル駅のビルの地下に、全自動とも言える回転寿司屋が開店したので行ってみた。

 開店を知らせる折り込み広告には、「日本初!withコロナ時代のスタンダード〜、感染症対策として完全非接触サービスを実現」などと書かれたいた。

 先ず、パソコンで予約して出かけたが、店の入り口に時間になると、予約番号が表示される。それに応じて入り口をくぐると、受付の自動案内の機械があり、予約番号を入れると、客席番号を記した紙が出てくる。それを持って番号の仕切りの中に入る。仕切りは殆ど天井近くまであり、中は小部屋のような感じになっている。

 向かい合わせのベンチ席で、奥に回転寿司のコンベアベルトが走っている構造は従来の回転寿司屋と同じである。ベルトは上下2段になっており、下のレールには色々な種類の寿司が容器に入れられて並び、何処までも続き、それがゆっくり回っている。自分の所に回ってきたものを見て、食べたいものを選んで取ることになる。どの寿司も透明な「亢菌寿司カバー」に入れられており、客が選んだ物の蓋を開けて中の寿司の皿を取り出すようになっている。

 上のレールには、普通何も載っていないが、下のレールで回って来ないものを、メニューを見てスマホで注文すると、上のレールを通って注文主の所まで超特急でやって来て、そこでぴたりと止まる。下のレールが鈍行列車で、上は新幹線といったところである。

 寿司を乗せた皿は全て同じである。以前は寿司の値段によって、色分けした皿が使われ、皿の色別と枚数によって会計がされていたが、今は鈍行列車の寿司は全て100円、新幹線で運ばれる寿司は客が注文するものなので、その時点で機械的にチェックされるので、皿の区別は不要になったようである。言うまでもなく、寿司は全て機械で握り、これ以上小さく出来ないような大きさになっている。

 使用済みの皿は従来通り落とし口に入れるのだが、面白いのは五枚落とすごとに、モニターに抽選の動画が流れるようになっており、殆どは当たらないが、面白おかしい動画になっているので子供達には受けるのではなかろうか。

 仕切りの上の高い所に、球が転がり落ちるようになった仕掛けが置いてあるのが見えたので、もし当たれば、そこの電気が点滅し、音楽が流れ出し、球が転がり落ちてくるようにでもなっているのではなかろうか。子供の喜びそうなエンタメまで用意されているのである。

 当方は年寄りなので、あまり食べられない。鈍行列車のものも、新幹線物で来るものも、合わせて三人で18皿を平らげただけであった。スマホで会計を頼むと、モニターに会計中とかの表示が出、残りの皿を全部落とし口に入れた途端に、値段が表示された。三人で結構食べたと思ったが18皿で三千円足らず、思いの外に安いのに驚かされた。

 食べ終わって、出口の会計に行くと、ここでも今流行りの無人の機械の会計が待っていた。会計は娘がしてくれたので良いようなものだが、冷たい、もの言わぬ無人の機械に金を入れておしまいでは何だか寂しい気がする。機械がワンタッチで会計をしてくれるのは便利には違いないが、折角食べて温かい気持ちになっている所に、冷たい機械だけの対応では何か物足りない冷たさを感じるのは私だけであろうか。出口で店員さんがありがとうございましたと頭を下げてはくれたのが僅かな救いのような気がした。

 今度来た時には、その店員さんの挨拶も消え、機械が御礼をを言うようになっているかも知れない。アメリカに長く住んでいて、最近帰国した娘が一緒だったが。アメリカにもこんなのはないだろうといって、ロスアンゼルスの娘にケイタイで電話して紹介していた。

 こんな店がどんどん増えて行くであろうし、老人はこれから、一人では寿司も食いに行けなくなりそうである。板前さんと向かい合ってマンツーマンで食べた寿司屋が忘れられない。