「探す」アプリ

 年寄り夫婦となると、どちらかが出掛けて帰りが遅いとつい何かあったのでは、何処かで倒れているんじゃないかなどと心配になるものである。

 私の場合も、外で階段から滑り落ちて救急車で運ばれたことがあるし、女房と一緒だったが、美術館に入る時に、脳貧血のような発作を起こしたことなどがあり、最近は一人で出掛けるのを嫌がられ、大丈夫だというのに大抵付き添ってくることになってしまっている。

 しかし、それぞれに用事もあるので、いつも一緒という訳にもいかない。近隣を散歩したり買い物などに出かける時には、一人で出ても、そんな時には、スマホで出来るだけ連絡を取るようにしている。

 ところが、この春に老人用のスマホをi-Phoneに変えてから、操作が複雑で慣れていないので、例えば急に電話があっても、何処をどう操作すれば、応答出来るのかまごついているうちに切れたりして、後で電話が繋がらないと文句を言われたりすることになっていた。

 そんなことがあったところに、アメリカから帰って来た娘がスマホの「探す」というアプリを準備してくれたので、早速試してみることにした。地図が出てきて、女房の名前を押すと地図上に女房の位置が示される。若い人にとっては当たり前のことであろうが、これは便利なものである。

 丁度、私が大阪へ行き、女房が千里中央へ行ったので、帰途、梅田で阪急電車に乗った時にスマホを開いて早速「探す」アプリを開いてみた。女房の名前をクリックすると、地図上に女房の名前が出てくる。見ると千里中央にいるようだと思っていたら、やがてもう少し西に移動しているようである。

 どうやらモノレールに乗車中らしい。見ているうちにだんだん西へ移動している。これなら、ひょっとしたら蛍池で阪急に乗り換えるので、会えるかも知れない。私もやがて蛍池を通るのだが、少し向こうの方が早いかな?などと思いながら、興味深くスマホを消したり、覗いたり繰り返していたが、向かうの方が早く、そのうちに池田に先に着いてしまったようだ。

 それから家に帰るのかと思ったら、駅のすぐ前のダイエーに寄って買い物をしているようだ。そのうちに私も池田に着いたので、再びスマホを見ると、まだダイエーで買い物をしているようだ。しばらく、ダイエーからの帰り道に、必ず通るであろう交差点で待っていたが、なかなか動かない。そのうちに痺れを切らして、ダイエーの店の前まで行って待っているとやがて出てきて捕まえるかとができた。

「探す」アプリなど初めて使ったが、便利なものである。結構、楽しませて貰ったし、これなら、これからせいぜい利用させて頂くことにしよう。

 しかし、便利なものには必ず裏の面もあるものである。これでは、逆にこちらの行動も逐一全て把握されてしまうことになる。老夫婦だから良いようなものの、これでは浮気も出来ないことになるのでは。世間の夫婦はどうしているのだろうか。家族で「探す」アプリを入れていたら、連絡には便利だし、思わぬ事故などの時の対応にも有用だろうが、子供にしても、常時監視されているようなもので、勝手に親の目を盗んで友達と知らない所へ冒険に出かけたりしても、全てすぐにばれてしまうではないか。

 夫婦も、時には、浮気でなくとも、お互いにこっそり何かをしたくなることもあるのではなかろうか。もっと若い夫婦で現実に浮気をするような時にはどうしているのかと気掛かりになる。そういえば娘もいつか、旦那が何処か行方不明になった時にも、このアプリで何処にいるのかすぐ突き止められたようなことを言っていたことがある。

 それでもこのアプリは見るだけでも、目的の人物が地図上を移動しているのが手に取るように判るので、見ているだけでんも楽しいし、認知症の老人が徘徊していても、これなら電車に乗って遠くへ行っていたとしても、容易に追い掛けることが出来るのではなかろうか。

 このアプリさえあれば、いちいち連絡しなくても、何処にいるか手に取るように実時間でわかるので、もう浮気する元気もない老人達は、せいぜい利用すると良いのではなかろうか。