春爛漫

 若くて忙しく仕事をしていた頃は、春と言っても庭に咲く花をチラと眺めたり、通りがかりに街路樹や道路脇に家の庭木の花を眺めて通り過ぎるぐらいのことであった。桜の花にしても、一度ぐらい職場の仲間と桜見物に行って酒宴で盛り上がったり、たまの休みの家族連れで花見に近くの公園に行くぐらい。庭の辛夷や水木、ツツジなどもゆっくり眺める間も無く季節が過ぎてしまうことが多かった。

 ところが歳を取り、仕事を辞めて家にいることが多くなると、冬の寒さも応えるようになるし、若い時以上に春が待ち遠しくなるものである。庭のサザンカの花が峠を越え、椿が咲くようになると、もうそろそろ梅の季節がやってくるのではと思い、2月になると探梅だと言って中山寺の梅を見い行くことになる。

 たいていはまだ早く、厚着したコート姿で寒風に吹かれながら、チラホラ咲き始めた花や、膨らんだ蕾を見て、「やっぱりまだ早いなあ」と言いながら帰ってくることになる。そして、啓蟄も過ぎ、光春の空が続くようになると、もう大分咲いているだろうと確かめるためにまた出かけることになる。

 そうこうしているうちに、たちまち三月。近くの家の枝垂れ梅が美しく風にそよぎ、ミモザの新鮮な黄色が空に映え、すぐ近くの木蓮の白いお椀のような花が膨らみ、割れるように開くのを見て春を感じることになる。雪柳もどんどん芽を伸ばし真っ白に垂れ下がる。

 そのうちにテレビで桜前線などが報じられるようになり、近くの桜も少しづつ開き始める。山裾の公園、街路樹、川縁の並木など、馴染みの桜の開花を楽しみにしながら散歩する。早咲き、遅咲き色色だが、やはり満開の桜はいつ見ても気持ちが良い。五分咲き、満開、桜吹雪と日毎に変わっていくのも楽しい。

 桜とともに、いろいろな木の花も一斉に咲き始める。万博公園で覚えた真っ盛りの黄色い花の大木はサンシュユだったし、白い桜の隣の真っ赤な花は菊桃だと知った。まだまだ名を知らない木の花も多い。

 木ばかりではない。草花も一斉に花を咲かせることになる、これも万博公園だが、かなり広い色とりどりのチューリップが艶やかに咲いている横に、同じ花壇に地味なムスカリが派手なチューリップに負けじといっぱい咲いていたし、ネモフィラや金魚草、桜草なども花盛りであった。川の堤のタンポポやクロばーも力いっぱい咲いている。

 我が家の庭も負けじと花盛り。成金草も今年は例年になく可憐な花を一杯咲かせているし、クンシランゼラニウム、パンディなども色を競っている。花の名前も最近になって大分覚えたが、知らない花もまだまだ多い。昨年覚えて是非にも欲しいと思って、一月に苗を求めて大事に育てて来たモッコウバラも咲き始めた。

 桜の次は桃。昨日見に行ったが、川向こうのすぐ近くに桃原郷があるのも嬉しい。庭のさつきも咲き始めている、4月の末には、例年我が家のハナミズキ躑躅の共演になる予定となる。

 今日は4月10日。つい先週までは寒くてヒートテックを離せなかったが、今日は天気も良く急に温かいというより、もう暑いぐらいの日差し、まさに春爛漫といったところである。