コロナの春

 もうコロナが流行り出してから1年以上になるが、一向におさまる気配はない。それどころか、春になって人々の動きが活発になるにつれ、またゾロ感染者が増えはじめ、第4波の到来とも言われている。

 そんな中で、もう90歳も過ぎた老人に出来ることは、混み合った所を避けて、出来るだけそっと暮らし、若い人達の迷惑にならないようにすることではなかろうか。

 それでも、冬の間、寒いので家に閉じ籠りがちだった老人も、明るい光の春になり、暖かくなって来ると、外へも出歩きたくなるものである。殊に私の場合は、脊椎管狭窄症による間欠性跛行とコロナの流行が一緒になってやって来て、一時は歩行器を押してでないと歩けなかったのが、ようやく良くなって来て、また歩けるようになったので、リハビリのためにも歩かなければならない事情もある。

 そうかと言って、コロナの流行中に、老人が混んだ電車に乗って、何処かへ出かけるのも具合が悪いし、以前のように、何人もが集まる会合へ出たり、一緒に絵を描いたり、人の多い劇場やギャラリーなどへ出掛けるのも良くない。都会の雑踏も避けるべきであろう。そんなことを考慮すると、一番無難なのは、家から歩いて行ける所や、せいぜい2〜3駅ぐらいの短距離の電車やバスで行ける範囲ぐらいの中での散策などを楽しむのが良いのではということになる。

 幸い今住んでいる所は、近くに猪名川が流れているし、五月山もある。中山観音の梅林もあれば、水月公園にも梅林がある。梅に続く桃も川向こうの南花屋敷の桃園が有名で、歩いて行ける距離にある。桜となると、五月山の他にも、あちら、こちらと花見に事欠かない。コロナのお蔭で、時間はあるし、足に訓練のためもあって、今年は例年よりもかえって、春の花を楽しむことが出来た。

 正月からの我が家の庭の茶梅や椿に続いて、冬枯れの辛夷に白い花が目に止まるようになると、近くの家のミモザが一度にフレッシュな黄色い花で覆われ、雪柳があちこちで春を告げ始める。近くにある木蓮も負けじと白いお椀のように花を開く。梅の季節はもう少し早くから始まっているが、探梅、観梅と訪れているうちに、次は桃だと桃源郷を訪れることとなり、すぐにもう桜前線がやって来て、あちこち桜見物に忙しくなった。

 そうこう歩いているうちに、灰色だった枯れた木々の梢も緑を増し、五月山の遠景もいつしか微笑んでくる。庭の芝生も新芽で覆われ、川の堤にはタンポポが散らばるように黄色い花を咲かせている。桜並木の下には菜の花畑も見られる。散歩道で特大の真っ赤な常磐万作が見れれるのも楽しい。名も知らぬ色々な花も彩を加えてくれている。

 ただ、桜に続いて例年4月半ばに咲く、我が家の自慢のダグウッドが、桜同様開花は早かったものの、老齢のためか一部の枝にしか花が咲かず かっての姿が見られなかったのが残念であった。

 コロナがこの先どうなって行くか、まだ定かではないし、コロナのワクチンもいつ順番が回ってくるか分からないが、ここしばらくは人の迷惑にならないように、近場を彷徨いて、気持ちの良い春の季節をせいぜい楽しませて貰おうと思っている。