反戦歌

 ロシアのウクライナ侵略が始まってから、毎日のテレビや新聞は戦争の話や、ウクライナ支援の声に満ち溢れている。コロナの流行ももう片隅に追いやられてしまった。

 そんな中で、また昔の反戦歌が聴かれるようになった。村上春樹が自分のラジオ番組で「戦争をやめさせるための音楽」特集をやり、「音楽に戦争をやめさせることができるか? たぶん無理ですね。でも聴く人に『戦争をやめさせなくちゃ』という気持ちを起こさせることは、きっと音楽にもできるはずです」というコメントなどを述べていた。

 またごく最近、たまたま朝早くつけたテレビでも、さだまさし反戦歌を流していた。ところが、その歌の殆どが1960年から70年台の歌であったのが興味深かった。「風に吹かれて」「イマジン」 「黒い戦争」・・・。懐かしいものが多かっが、それらの殆どが、ベトナム戦争イラク戦争などのアメリカの侵略戦争についてのものばかりなのである。

 そのアメリカが、今は先頭に立ってロシアのウクライナ侵略を非難し、世界中に呼びかけてロシアに対する経済制裁をし、プーチンを人でなしとまで公然と非難し、こっそりロシアを助けはしないかと中国にまで経済制裁するぞと脅しをかけさえしている。

 まるで自分たちの過去をすっかり忘れてしまったかのようである。冷戦終結後の過去の三十数年の間でも、完全な平和など世界にはなかった。毎年どこかで戦争や内戦、紛争、暴動が起き、戦闘が行われ、血が流され、命が失われて来たのである。

 長い間のアフガニスタンからのアメリカ軍の撤退で漸く戦争が終わったのは、まだつい先日のことではないか。これまでの戦争の殆どが、アメリカが絡んだ戦争や紛争だったのである。ベトナム戦争イラク戦争、シリアやアフリカなどの中近東の紛争、アメリカの侵略戦争ばかりだったと言っても良いぐらいだったのである。

 現在、ロシアを非難する時、アメリカはこれらの自国の過去の戦争をどう思って言っているのだろうか、聞いてみたい気がする。

 ロシアのウクライナ侵略は許せないが、それにもかかわらず、中国やインド、ブラジル、アフリカ諸国など、アメリカの強引なロシア制裁の呼びかけにさえ同調しない国が多いことも過去の歴史が反映している表れであろう。アメリカ主導のロシア制裁につながる殆どの反戦歌の対象がアメリカの侵略戦争であったことは歴史の皮肉であろう。