新幹線の運転手

 新聞やテレビで、新幹線の運転手が運転勤務中に急に腹痛を起こし、我慢出来なくなって、三島あたりを走行中に、5分間だったか席を離れ、その間、列車がそのまま走っていたことが問題視されていた。幸い事故にもならず、乗客にも何の影響もなかったが、考えてみると恐ろしいことである。

 新幹線では、非常の時には、運転司令室に連絡して列車を止めることになっているそうだが、運転手は列車ダイアを乱して煩わしい問題を起こす程のこともないと判断し、運転資格のない車掌に頼んで、運転席を外れたのだそうである。新幹線開業以来初めてのケースとして、安全運転上の重大な問題として取り上げられていた。

 確かに重大事故にもつながりかねない大問題であるが、運転手も人間である以上、突發的な身体の故障は、誰にでも、何処ででも起こりうるものである。名古屋までまだ1時間以上もあり、我慢出来なかったことも十分理解出来る。運転手の突発事故はこのケースでなくとも、運転中に能卒中や心筋梗塞を起こすことだってありうることである。

 昔の旧国鉄などでは、運転手が二人勤務だったこともあるようである。今でも、飛行機には必ず副操縦士が乗っている。新幹線では、運行は全部を中央コントロールシステムで制御しており、自動でも走れるが、緊急の場合には、そこに連絡すれば、全ての列車をも止めることも出来るらしい。そのため運転は一人に任されており、運転資格を持った車掌がいる場合もあるが、全ての車掌に運転資格があるわけでない由である。通常は一人運転で、何かあれば、連絡して列車を止めることになっているようである。

 しかし、列車を止めるとなると、今日のような超過密な列車運行スケジュールでは、多くの後続列車の運行に影響が出て、ダイアの大きな混乱とともに、経済的な損失も大きなものになる。あくまでダイア優先で、余程のことがなければ止められないであろう。福知山線脱線事故でも、原因は1〜2分の遅れを取り戻すために、カーブを急速度で無理して突き切ろうとしたことにあると言われている。もしこの新幹線の運転手の場合も、もし腹痛のために列車を止めたら、どれだか煩わしいことが待っていたことであろうか。

 それが分かっているので、新幹線は無人でも短時間なら普通には走行に支障がないように出来ているし、出来るだけ周りに迷惑をかけたくないと考え、資格のない車掌に頼んで短時間、席を離れる判断をしたのであろう、その事情もよく分かる。

 この問題は運転手個人の問題ではなく、JRの組織としての、緊急時の対策に問題があったと見るべきであろう。列車の運行を急に止めた場合の客への迷惑、ダイアの混乱などや、経済的な影響の大きさを考えれば、それは出来る限り避けたいであろう。その上で安全対策を考えるべきであろう。

  幸い事故に繋がらなかったのが何より良かったが、安全運転の確保のためには、完全に安全な無人運転が出来ない限り、運転を人に頼るのなら、費用がかかっても、代替運転手の常時確保も欠かせないのであろう。やはり利益優先の経営体質が、安全対策の欠落に繋がっているとするべきであろう。この事件を運転手の叱責や懲戒などで終わらせるのではなく、福知山線のような重大事故の萌芽と認識して、徹底的に安全対策を見直して欲しいものである。