視覚障害者の駅のホームからの転落を防ごう

 去る7月26日の午後、東京 のJR阿佐ヶ谷駅で、ホームを歩いていた視覚障害者の男性が線路に転落し、ホームに上がろうとしたが、間に合わず、進入してきた電車にはねられ、死亡するという事件がまた起こった。

 国土交通省によると、平成30年度の1年間に起きた駅のホームからの視覚障害者の転落事故は63件あり、3人が列車にはねられ死亡したということらしい。全く痛ましいことである。
こういう事故をなくすために、近年はホームドアの設置が進められているが、まだ一割にも満たない状況である。
 鉄道会社では「駅員だけでなく一般の客の助けも必要だ」と話していて、目の不自由な人を駅などで見かけたら、安全に利用できるよう気を配ってほしいと呼びかけている。しかし、視覚障害者団体の人によると、最近のコロナの時代には「外出控えで人が減っていることに加え、人との距離を保つことも求められていて、もともと少なかった声をかけられる機会が、さらに少なくなっている」そうである。

 駅のホームからの転落事故は一般の乗客をも含めると、 全国で2789件起きているので、ホームドアの設置が急務であるし、健康な人の視覚障害者やその他の弱者に対する思いやりも必要であるが、私が以前から気になっていることがある。

 昔はどこの駅でも「列車が来ます。危ないですからホームの白線からおさがり下さい」と放送されていたものだが、今はどこの駅にも、もう白線がなくなってしまっている。視覚障害者用の黄色いブロックがホームに導入されてから、白線と黄色のブロックが並ぶことになり、どこでも外側の白線が省略されて、黄色いブロックがホームの安全域と危険域を分ける境界となっているのが普通である。

 その頃から私は気になって仕方がなかったので、いつか何処かに書いたこともあったかと思うが、視覚障害者に安全と危険の境の最前線を歩かせても良いものだろうかと心配であった。しかし、いつの間にか、それが当たり前になって、どこの駅のホームでも標準的にこれが採用されているのが現状である。

 元の白線と黄色のブロックの間は10センチも空いておらず、黄色のブロックにはその目的のためにわざわざ作られた凹凸があるので、その上を歩くのは普通に人でも、僅かであっても、よろめき易い。よろめきやすい我々老人は安全のため、黄色いブロックの奥側しか通らないことにしている。

 黄色いブロックの線の位置がどのように決められたのかは知らないが、視覚障害者のホームでの安全を図るためであれば、ホームの端からもっと離れた奥の方に、ホームと平行なブロックの線が引かれて、そこから電車の各ドアの位置に向かって、それぞれに直角のブロックを引くようにした方が安全なのではなかろうか。

 一般の乗客のホームでの便利さや、混み具合など、それに経済的な効率なども考慮して決められたのであろうが、今のあり方はどう考えても、視覚障害者に健常者よりも危険性の高い所を歩かせることになっており、健常者よりホームから転落する危険性を大きくしているような気がしてならない。

 ホームでは「黄色いブロックの上に物を置かないでください」というアナウンスはしているが、混んだホームでは黄色いブロックのすぐ奥に人の列が出来ているので、障害者は見えにくい目で、黄色いブロックの外寄りを歩かねばならないし、ブロックでどうしても足元がふらつきやすくなる。転倒の危険が普通の人より大きくなるのを避けられない。

 健常者が障害者を盾に、身の安全を図っている図のような気さえする。ホームドアの設置が全てを解決してくれるであろうが、それが完成するまでは、それほどお金もかからない黄色いブロックの誘導線を安全な位置に変えて、その上で健常な乗客の支援をも呼びかけるのが良いのではなかろうか。弱者に優しい鉄道の運営のために、是非検討してもらいたいものである。