漢字の熟語は難しい

 安倍晋三前首相の時から、屡々大臣の漢字の読み違えが指摘されてきているが、安倍首相ばかりでなく、多くの大臣が変な漢字の読み方を繰り返し、「事前に原稿をチェックをしないのは世の中を舐めているし、伝統文化や日本語に対する尊崇の念もない。母国語を大事にしない人間が母国を大切にするはずもない」などと辛辣な批評までなされている。

  安倍前首相の場合には、市井を「シイ」と読み、云々を「デンデン」、背後を「セゴ」と読んで、笑い者になったのが忘れられないが、当時、安倍首相以上に誤った漢字の読み方をしていたのは、麻生太郎財務大臣であった。一番有名なのは、未曾有を「ミゾウユウ」と読んだことであったが、その他にも下記のように幾らでもあった。

 踏襲 フシュウ 措置 ショチ 詳細 ヨウサイ  怪我 カイガ  頻繁 ハンザツ 

 完遂 カンツイ 焦眉 シュウビ 低迷 テイマイ  前場 マエバ  物見遊山 モノミユウザン など。

 こうなると、もう教養のなさを表しているとしか言えないようなレベルであるが、彼のいつもふんぞり返ったような姿勢を見ていると、周辺から誰も間違いを正してくれる者がいないのではないかと思われてくる。

 首相が菅氏に変わっても、相変わらず、改定を「カイセイ」、貧困対策を「ヒンコンセタイ」、被災者を「ヒガイシャ」、伊方原発を「イヨクゲンパツ」、枚方を「マイカタ」というような誤りが多いが、菅首相の場合は、いつも原稿の棒読みなので、老眼のことあり、読み間違えも多いのではないかとも思われる。

 また、ごく最近には、加藤官房長官も寄席を「ヨセキ」と言って驚かされたが、彼は落語のファンなのだそうである。

 こんなに色々あるが、漢字の熟語は長い歴史を踏まえて、読み方ひとつでも複雑な面があり、昔のようには漢字の教育もされず、IT化なども手伝って、言葉の使われ方も変わってくると、全ての人が昔ながらの伝統をそのまま引き継ぐことが困難になって来ている面も強い。あまり厳しく批判するのも酷であろう。誰しも漢字の読み方などについては、思い違いをしている所がなきにしもあらずであろう。

 前場と書いて「ゼンバ」と読むのは、いわば業界言葉であり、普通に読めば「マエバ」か「ゼンジョウ」であろう。市場を「イチバ」と言わずに「シジョウ」というのと同じであろう。ただし、財務大臣麻生太郎に「マエバ」とは読んで欲しくないと誰もが思うであろう。    

 また、最近、元文部科学副大臣義家弘介氏が便宜を「ビンセン」、出自を「デジ」と読んだこともあったそうだが、氏は元高校の教師だったそうである。国の大臣なら正式の場では、原稿に目を通し、正しく発音にも注意して言葉を述べることも必要であろうが、現在のように従来の日本語が時代の変化とともに揺らいでいる時には、全くの誤りや誤解に繋がることを別にすれば、平均的な人々と同じ程度までは、細かい読み方の間違いなどは多目に見なければ仕方がない面もあろうかとも思われる、

 SNSで調べてみても、漢字の間違った読み方が多い順に並べてあったが、上位から10位までは以下のようであった。

 乳離れ(チバナレ=チチバナレ)貼付(チョウフ=ハリツケ)続柄(ツヅキガラ=ゾクガラ)礼賛(ライサン=レイサン)依存心(イソンシン=イゾンシン)漸く(ヨウヤク=シバラク)早急(サッキュウ=ソウキュウ)間髪(カンハツ=カンパツ)代替(ダイタイ=ダイガエ)一段落(イチダンラク=ヒトダンラク

 これを見ると、私自身も間違って読んで来ているものもある。琴線を「コトセン」に触れると言ってきたが、正しくは「キンセン」らしい。凡例は「ボンレイ」だと思って来たが、「ハンレイ」が正しい。逆に古文書は「コモンジョ」と言ってきたが、最近は「コブンショ」と呼ばれることが多いそうである。

 こういう読み方は時代によっても変わるもので、大多数の人が読み方を変えれば、それが正しい読み方になってしまうわけだから、あまり昔にこだわることもない。喫茶店も恐らくは「キッチャテン」がなまって「キッサテン」になったものであろう。私の子供の頃は、まだ年寄りで、「キッチャ」と発音している人もいたものである。

 教養のなさを厳しくいう人もいるが、読み方、書き方などは歴史的にも社会的にも、流動的なものなので、人を貶しめたり、文句をつける素材に使われ易いが、あまり細かいことに拘るのもどうかと思う。