警察国家への道

 先の選挙で安倍首相が街頭演説をした時に、一人でヤジを飛ばしただけで、男性が警察官に取り囲まれて強引にその場から排除されたり、首相反対のプラカードを掲げただけの女性も、私服に取り囲まれて離れた場所まで排除されたことがあったことは記憶に新しい。同様なことは他の場所での首相の街頭演説でもあったが、それらについての警察当局からの明確な説明は未だに行われていない。

 そうした中で、コロナで緊急事態宣言が出された夜には、繁華街でマスクをした警察官が大量に動員されてパトロール。警棒を片手に「自粛要請が出ていることを了解していますか」「緊急事態宣言中なので帰ったほうがいいんじゃないですか」とほとんど命令に近い口調で、帰宅をうながしていたそうである。殆ど自粛要請に名を借りた「取り締まり」で、抜いた特殊警棒を振り回して帰宅を促す警察官たちが見られたようである。   

「警察の上層部はとにかくやる気満々で、小池百合子知事が外出自粛要請を出した3月末ごろから、不急不要の外出を行う都民に目を光らせるよう内々に締め付けがあり、同時に、緊急事態宣言が出たらすぐに動けるように準備しろ」とも指示されていたとのことである。警察が存在感を示す格好の機会と考えたのであろう。

 緊急事態宣言が出ると、全国の警察本部を束ねている警察庁が警戒・警備を強化するよう都道府県警に指示、菅義偉官房長官も8日の記者会見で「各知事が感染拡大防止の対応を行うに当たり、警察においても所要の警察活動を通じて適切な対応をすることになる」と明確に述べている。

 営業停止や自粛に対する満足な補償はしないし、首相自らこの緊急事態宣言の結果について「責任を取れば良いような問題ではない」と言いながら、警察力による威圧や取り締まりはしっかりしていこうという構えである。そこに、今は新型コロナウイルス禍で、安倍政権の対応を批判したり、疑問を呈したりすると「安倍総理だって頑張っているのに」「国難なんだから批判するな」といった声が湧き起こる現状がある。

 警察関係者も「国や自治体の首長だけでなく、国民も『外出者を取り締まれ』という声が大きいですからね。強硬な声がけには苦情も多少はありますが、ごく一部。少なくとも警視庁には、今なら多少、強引なことをやっても、批判は受けないという空気がありますね」と言う。 

 確かに、今回の緊急事態宣言については、新型コロナ感染拡大に不安を感じた国民の方も積極的に自粛を求めた部分があるが、しかし、だからといって、この状況を利用して市民の人権が警察権力の増大によって侵されるような事は決して許してはならない。警察当局の動きについても十分にチェックする必要があろう。

 権力の行使は放置すれば、必然的に拡大強化されていくものであることは、戦前の歴史が証明しているところである。一旦出来た 治安維持法は次第に拡大解釈され、不法な取り締まりは、共産党から社会主義者へ、そしてやがては自由主義者や、政府に反対するすべての人へとその対象を広げ、国のため、公共のためとして、多くの残忍な警察の取り締まりが行われた歴史を忘れてはならない。

「公共の福祉」のためには、「私権」を制限出来るというのが日本国憲法の考え方という人もいる。政府はこの機を利用して憲法改正さえ狙っている。森友、加計学園問題、桜を見る会問題を抱え、検察人事にまで介入して歪んだ政策をそのまま通そうとする安倍政権にとって、現在のコロナ感染症は天与の僥倖と映っているのかも知れない。

国難だから政権批判するな」が生み出す「ほんとうの国難」がやってきそうである。再び戦前の警察国家にだけはなって欲しくないものである。何とか、このコロナ禍の果てに、明るい展望が開けることを願って止まない