緊急事態宣言下でのオリンピック開催

 今年春だったか、IOCのバッハ会長がコロナ禍の中でのオリンピック開催を唱え、「たとえ菅総理が反対しても」「緊急事態宣言が出されても開催される」と発言して、多くの日本人の反発を買い、海外からもオリンピックの収益にしがみついたバッハ会長の姿勢をBaron von Ripper-off(ぼったくり男爵)などと揶揄されたものであった。その時は何と極端なことを言うのかとびっくりした人も、今や、まさかそれが本当のことになりそうなのを見て、びっくりしていることであろう。

 この春以降もコロナの流行がおさまらず、第3波、第4波と感染拡大の山が続き、これではオリンピック開催も難しいのではと言う雰囲気が国を覆い、世論調査でも、70〜80%の国民が、オリンピック中止か延期もやむを得ないと考えるようになっていた。オリンピックも出来れば良いが、それよりこのコロナ感染を何とかしなくてはと考えるのは当然のことであったと言えよう。

 それでも政府は何とかしてオリンピックを開催したいらしく、専門家の緊急事態宣言下でのオリンピックは普通には考えられないことだと言う意見を無視してまで、先のIOCJOC、東京都、日本政府らによる会合では、IOCよりも政府が開催に積極的で、観客数を減らすか、無観客ででも兎に角、強行することを主張したようである。

 第4波が少し落ち着いてきたら、政府は早々に緊急事態宣言を打ち切って、蔓延防止策に切り替え、集団免疫を得るにはもう間に合わないが、せめて少しでも免疫をつけるためと、コロナワクチンの摂取を大々的に始めたが、第4波の終焉の判断の誤りは予想通り、感染の再増強を来たし、オリンピック開催時期が迫るにつれて、コロナ感染再燃が強くなり、再び緊急事態宣言を出さざるを得なくなった。

 その間にもオリンピックよりもコロナ対策に専念するよう政府への意見も多く、個人や団体、SNS などでの、はっきりとしたオリンピック中止の表明も多かったが、政府は時間の経過に任してオリンピック開催日を待ち、なし崩しに開催に持っていこうとしてきた。

 政府の読みでは、強引にでもオリンピックを開催する所まで持っていけば、オリンピックで盛り上がり、強行出来、政府の支持も変わると踏んで来たようである。国民には説明もなく、影でことを進めて、時間の経つのを待つ姿勢を続けてきた。

 ところが、東京都の感染者数は日毎に増え、これでは再び緊急事態宣言を出し、その元でオリンピックを開催しなければならない事態となってしまった。

 こうなると政府は一方では、国民に対して『自粛せよ』『外出するな』『酒を出すな』『夏祭り、花火大会やるな』と求めながら、他方では人類最大のお祭りである五輪だけは開催するという、全く矛盾したことをすることになる。それでは国民の協力は得られる筈がない。

 オリンピックかコロナ禍どちらを優先させるべきかは、誰が考えても、人命に関わるコロナ撲滅の対策が先行すべきは当然である。もうオリンピックまで時間がないと言うのも言い訳にはならない。コロナに対する緊急事態宣言であれば、オリンピックについても緊急事態として、いつでも中止できるであろう。

 たとえ、オリンピック中止に伴う財政的な負担、その他の問題が大きかろうと、コロナ感染拡大による多くの人の人命喪失には換えられない。今からでも遅くない。きっぱりとオリンピックは中止にすべきである。

 「中止すれば確実に回避することが出来る大きなリスクを承知で、なお、五輪・パラリンピックを強行するという博打(ばくち)を打つ政治的決定が、倫理的に許されるかどうかという問題でもある」と政府の決定が道徳に反するとする意見のあることも付け加えておきたい。