漫画家鳥山明氏の死

 先日メディア一斉に鳥山明氏の死を報じた。まだ68歳で急性硬膜外血腫による突然の死亡だったということである。

 その名を見て一体どういう人だろうか分からなかった。説明に「ドラゴンボール」の漫画で一世を風靡したとあったので、「ドラゴンボール」という名は聞いたことがあり、漫画かアニメでかなり有名な人だったのであろうことが分かった。どうも世間ではあまりにも有名な漫画家ようである。

 私も漫画は子供の頃から親しんできた方で、「のらくろ」や「タンクタンクロウ」、「冒険ダン吉」などの漫画を読んだし、手塚治虫は中学校のクラスメートだったので、戦争中から自作の漫画を見せてもらったりしていた。戦後も手塚や長谷川町子、赤塚不二雄その他の漫画は結構見ていた方であった。

 それでも鳥山明と言われても分からなかった。「ドラゴンボール」と聞いてそんな漫画もあったなあと思い出したが、名前だけで実際に見たことはなかった。「ドラゴンボール」の他にもいろいろな作品を描いて随分有名な漫画家だったらしいが、私は何も知らず、死亡広告で初めて名前を知り、驚かされたことになったわけである。そんな有名な人が同じ社会にいて、死亡の知らせで初めて知ったことはショックであった。

 いつしか、もうこういう時代になってしまったのだなと思わざるを得なかった。これまで私が親しんできた名前の人たちは、いつしかもう殆ど死んでしまっていて、近頃新聞やメディアを賑わせている人たちは、いつの間にかもう私より若い人たちばかりになってしまっているのである。

 かって自民党菅首相が沖縄へ行って「私は戦後生まれなので、沖縄戦のことは知らない」と言ったのを聞いて、もう日本の政治家には戦争の記憶もないし、戦後のアメリカ支配のこの国しか知らないのだなと思ったものだったが、いつの間にか時が流れ、戦争も戦後の生活も、高度成長の時代さえ知らない若者までが増えていることを思わざるを得なかった。

 同じ日本人だと思っていても、何となく同じような世間が続いている積もりでいても、実はいつしか人はどんどん入れ替わり、今実際に出くわしている人々はもう皆新しい時代の日本人であり。もう戦争を知っているような人はわずかに生き残っているだけで、その人たちもやがていなくなってしまうであろう。

 一世を風靡した漫画家が私よりずっと後で生まれ、この世で活躍し、皆に惜しまれながら、私よりも先に、まだ68歳だかで急に亡くなってしまったということである。自分が年をとったことを自覚させられたとともに、時代の変遷を強く感じさせられた次第であった。