夏は出張った腹が見だつ

 街の広場で何かの催しで、店が出て人が集まっていた。何ということもなく、通りがかりに眺めていると、中にそれほど太ってもいないのに、腹だけが出張っている中年の男が目についた。Tシャツの腹の部分だけが妊娠した女性のように異様に突出しているのである。夏なので皆薄着である。冬であれば、上着でも着ているので、それほど目立たないのであろうが、夏は薄着なので隠しようがない。

 その人が目についたので、他の人も観察してみると、他にも似たような人が2−3人すぐに見つかった。日本でも肥満だの糖尿病、高脂血症、高血圧などと、生活習慣病と言われるものが問題になってからすでに久しい。

 同じ日本人と言っても、その体型は戦争のあった頃と今ではすっかり変わってしまった。昔は平均して背が低く、痩せていて身が引き締まっている感じであった。

 顔も丸顔で鼻が低く、ぺちゃんこの感じの人が多かった。特に西日本ではオカメのような顔貌が多く、北日本などに多かった凹凸のはっきりした般若型と対比されたものであった。

 それがどうだろう。人の顔貌や体型がこんなに短年月に、こんなに変わるものとは思わなかったが、現実には「こんなに」と言って良い程変わってしまっているのである。

 背丈だけ見ても、昔の徴兵検査の合格点が152センチとされていたことからも分かるようにチビが多く、160センチあれば人並み、170センチではもう「のっぽ」の方であった。戦前はお相撲さん、戦後は西欧人ぐらいしかいなかったが、電車のドアに頭が支えるような人を見たら、思わず「高いな」とびっくりさせられたものだったが、今ではそんなのは当たり前、女性でも、ドアに頭が支える人も見るようになった。

 私の経験でも、昔は満員の通勤電車に乗っても、周りが女性だったら向こうが見えたが、最近はもう背の高い男たちに囲まれると、周りの男たちの背中しか見えない。道を歩いていても、背の高い男はコンパスが長いので、必然的に歩くスピードもそれだけ速くなるので、歩くのが速いのが自慢だった私も、年と共についていけなくなってしまった。

 顔貌も変化した。戦後日本人の鼻がいつしか高くなって、今では尾翼と鼻口しかないような低い鼻の人を見るのも滅多にな胃ことになってしまったし、いつの間にかオカメ顔が減って、般若型が優勢になっている。その上、近年はメイクが発達して、どの女性も皆一様に「明眸皓歯」で、区別がつきにくくさえなっている。

 そこへ、昔とはすっかり変わったのは肥満気味の体型の人が多くなったことである。身長や体重よりも形態の変化である。日本人は今でも欧米人ほどひどい肥満の人はそれほど多くない。しかし、昔と比べて一番違うのは体の引き締まりようではなかろうか。昔の人は痩せていて肉体労働が多かったからか、身が引き締まった感じであった。それが今ではどうだろう。それほど太っていなくても、体に締まりがなく、だらりとした感じである。

 この傾向は既に、ベトナム戦争の頃から感じられたたことである。テレビや新聞に出て来たベトナム人を見る毎に、日本人も昔はこうだったなと思ったものであった。それからも随分年月が経ってしまったが、日本人の体型は欧米人によく見られるような肥満はそれほど多くないが、それほど太っていなくとも、体全体がだらりと締まりがなく、腹が少々出ていると言った感じの人が多くなったような気がする。

 同じ日本人と言っても、今と昔では外見だけでも随分違っているのである。テレビなどで時代劇を現代の俳優がやっているが、その時代の人物たちは、それを演じている現代の人たちとはかなり違っていたことも考慮に入れて見るほうが良さそうである。

 夏は皆薄着で体型がモロに外の現れやすい。そんな夏の薄着の人々を見ていると色々なことが思い出されて来た次第である。