映画「こんにちは母さん」

 山田洋次監督の映画「こんにちは母さん」を見た。下町の長年続いて来た足袋屋の寡婦吉永小百合が「母さん」で、昔ながらに鍵もかけない古い店に一人で住んでいるが、近所に住むボランティア仲間らが勝手に上がり込むような生活の中で、教会の牧師などと一緒に、浮浪者たちの救援ボランティア活動などをしている。

 その一人息子は大会社の人事部長をしているが、妻とは離婚し、一人暮らしをしている。娘は大学生で、家を出ているが、学校へも行かなかったりしているといった家族の物語である。息子が会社の仕事で、同期入社の友人の首を切らねばならない羽目になり、紆余曲折があった後、最後には自分も首になって会社を辞め、母の古い店に転がり込んで同居することになるという話である。

 今年92歳になる山田洋次監督は、「寅さんシリーズ」をはじめ、数々の社会的人間ドラマ劇を作って来た人だけに、この映画も「流石に」と言わしめるだけの上質な仕上がりであった。「日本の監督で、品格と言えば、先ず山田洋次監督に指を屈しなければなるまい。芸術家を気取らないし、職人より万事意識的だ」という批評が朝日新聞にあったのも頷ける。

 映画の内容は実際に見て貰うこととして、柴又の「寅さんシリーズ」の頃からこの監督には何か関西の匂いを感じていたが、事実、この人は大阪の豊中市岡町の生まれで、3歳の時までそこで暮らした後に、父親の仕事の関係で、中国東北部に引っ越したのだそうだが、今でも生家の記憶を朧げながらも覚えている由である。

 たまたま10年ほど前に、その家が当時の外観のまま残っている事を知り、以来、地元の人が「とよなか山田会」を作ってくれてたりして応援してくれて、繋がりが出来、今は毎年のように映画の放映会などもしてくれているそうである。勿論、今回の「こんにちは母さん」の先行上映会もあったそうで、監督もしばしば豊中を訪れているそうである。

 ところで、その昔の外観のまま残っている家の住人というのが、たまたま私の知人なのである。阪急の池田の駅舎の一室を凝りて、もう30年以上も前から、私も加わって続けて来た毎月一回の裸婦のクロッキーを描く会があるのだが、いつだったか、このグループに何年か前から参加されるようになった女性の画家がその家の今の主人であることを知って驚いた次第である。