映画「梅切らぬバカ」

 

 「若手映画作家育成プロジェクト」に選出された映画作家、和島香太郎という人の映画。これまでも障害者の住まいの問題に接してきた人らしい。この映画では、古民家で占い業を営む山田珠子が、近隣住民との付き合いを避け、自閉症の息子・忠男とふたりで暮らしている話である。

 題目は植木の常識である「桜切るバカ、梅切らぬバカ」から来ている。庭に生える一本の梅の木は、忠男にとって亡き父親の象徴だったが、その枝は塀を越え、細い私道にまで乗り出している。私道の奥の隣家に越してきた里村茂は、通勤の妨げになる梅の木と、予測のつかない行動をする忠男を疎ましく思っていたが、妻の英子と息子の草太は、珠子の大らかな魅力に惹かれ密かに交流を育んでいくことになる。

 そうしたある日、忠男の通う作業所に呼び出された珠子は、知的障害者が共同生活を送るグループホームへの入居案内を受ける。自分がいなくなった後の忠男の人生を考え続けてきた珠子は悩んだ末に入居を決めるが、住み慣れた家を出た忠男は環境の変化に戸惑うばかり。

 ある晩、他の利用者とのいさかいをきっかけにホームを抜け出した忠男は、近隣住民を巻き込む厄介な“事件”に巻き込まれてしまう。それには里村の子供も絡み、珠子は忠男を再び家で一緒に暮らすことになると言うのがあら筋。

 自閉症の忠男と周辺の社会の軋轢や齟齬を極端に追い詰めるのではなく、平易に淡々と描いて終わっているの良い。簡単な解決策が見つかるわけでなく、見た者がどう見て、どう感じるかに委ねているようである。

 久し振りで見る加賀まりこの珠子も、自閉症の息子の忠男役も良かった。