かん國映画「はちどり」 

 韓国の新しい若い映画監督キム・ボラさんの「はちどり」(House of Hummingbird)という映画を見た。昨年韓国で公開され、「パラサイト・半地下の家族」に次ぐ異例の大ヒットとなった映画だそうである。

 ソウルの集合住宅に住む14歳のウニの何の変哲も無い日常生活を描いただけの作品である。この年頃の少女の、親子5人の家庭や学校での生活上の出来事や、それから受ける心の動きなどを丹念に上手く描写している。それに金正日の死亡や、漢江のソンス大橋の崩落事件などの時代背景を絡ませ、その時代の中での少女の生活や心理が的確に描かれていて興味深い映画になっている。

 両親は餅屋の仕事に忙しいので、あまり構って貰えない。両親の仲違いや、学歴社会に振り回される兄、異性の友達にのめり込む姉、家父長社会の名残を残す人間関係や、この年代の年頃の娘の学友たちの付き合いの難しさなどを上手く描写している。韓国の集合住宅の中の様子や、そこでの暮らしぶりなども興味深い。ベッドでなく、床に布団を敷いて寝ている様子など懐かしい。

 誰にも真剣に向き合ってもらえず孤独なウニの心に、漢文塾の学生運動の闘士ででもあったかのような一風変わったタバコを吸う女性の先生だけが真剣に向き合ってくれ、心を惹かれるなどなどのストーリー。若い監督の記憶に依拠して作られたのではないだろうかと思いたくなる。

 細かな描写までよく出来ている映画である。この先生に「自分が分からなくなっても指は動かせる」と言われ、ずっと後の場面で、また指を動かしている手の大写しの場面が出てくるなど、忘れ難い。ただ、姉の描写が橋の崩落を免れた話以外はっきりしなかったが、初めの方で男友達と戯れてtいたのがウニでなく姉の方であったのを見誤っていたのかも知れない。

 とにかくよく出来た映画であった。今後のこの監督の成長を期待したい。