熱中症警戒アラーム中の高校野球

 今年もまた夏の甲子園の全国高校野選手権大会が始まり、連日テレビで中継している。今年で第105回と書いてあるが、この大会は戦前の中学校の大会から続いている伝統的な大会である。しかし、近年のように異常とも言える高温が続いているのを見ると、ここらで再考を要するのではなかろうか。

 元々は夏休みを利用したもので、夏の暑さなど問題ではなく、暑さにも負けない精神力で勝ち抜こうなどというような意気込みで運営されてきたものであろう。日本ではスポーツは、例え不利な条件があろうとも、頑張ってそれを乗り越えてするところに若者の意義があるとされてきた伝統がある。日本的な精神至上主義が根底に流れていたのである。しかし、もはや非科学的な精神力に頼る時代ではない。

 如何に科学的に合理的に技を磨き試合に臨むかが重要とされる時代である。体温を超えるような気温の中で、高校生に無理な負担をかけてまで試合をする意義があるかどうかを考えてみる時期が来ているのではなかろうか。

 これだけポピュラーなスポーツになってメディアの取り上げ方も大きくなると、今度は商業主義が入り込み、必然的に試合をする高校生のことより、興行としての野球が優先してくることもあって、選抜試合全体の変更を迫ることも困難になってきていることもわかる。

 しかし、テレビを見ていると、NHKの中継画面の左に「熱中症警戒アラート 大阪 兵庫 京都 滋賀 和歌山」とテロップ表示されている中で、炎天下の甲子園で高校球児たちが白球を追いかけている映像が流れていた矛盾に誰も責任を取らないのだろうか。高校生はまだ未成年者である。テレビ局が片方で熱中症の警告をしながら、もう一方で堂々と野球中継を行っている姿に驚きを禁じ得なかった。

 大人である社会には何より高校生たちの健康を守る義務があるのではないか。SNSでも、視聴者から「これほど説得力に欠けるアラートはない」「表示しながら中継している矛盾」「発令中は野外活動は控えてください!」などと疑問の声が相次いでいたそうである。

 現に大会2日目だったかの試合では、酷暑によるアクシデントが起こり、3選手が担架で運び出され、次の日にも3選手が足をつったり動けなくなる症状が出たりしているようである。

 大会当事者の方も放置しているわけではなく、手を打つようにはしているようで、今大会から5回終了時に10分間のクーリングタイムが設けられ、ベンチ裏のスペースに送風機や冷凍庫、サーモグラフィーが完備され、理学療法士のもとで保冷剤の入ったアイスベスト、ネッククーラーなどを利用できるようになっているそうである。

 しかし、両選手のアクシデントはクーリングタイムの後のことだったそうである。水分補給の休み時間を間に入れることなども実行しているようだし、大会運営のあり方についても、ナイター開催、ドーム球場への変更、その他色々幾度となく議論されてきてはいるようであるが、一向に実現しない。

 おそらく長年の伝統を変えることの難しさ、近年殊にに強くなった商業主義の絡む問題などもあり、なかなか根本的な解決策に進んで行けていないような気がする。しかし高校生の球児の健康を守ることは大人の責任であり。球児の健康を大会の如何よりも優先させるべきは大人の社会の最低限の義務であることをしっかり肝に銘じて早急に改善措置を実行すべきである。