李卯煥(Lee Ufan)展

 戦後1970代のアートの流れの中で「具体」と共に忘れ難いのが「もの派」であろうが、「具体」は関西の運動であったので、時にその活動を実時間で見たり、あちこちで、その作品を観る機会があったが、「もの派」については関根信雄や李卯煥などの名前は知っていたが、作品は間接的な情報ばかりで、実物はあまり見る機会がないまま過ぎて来てしまった。

 また、李卯煥については、丁度直島の安藤忠雄地中美術館へ2度目に行った時に、その奥に李卯煥の美術館が造られるという案内を見たが、そのままになってしまっていた。

 そういうところに、昨秋、兵庫県立美術館で李卯煥の個展があるということを知り、パンフレットを貰って、時の来るのを待っていた。ところが、年を跨いでの開催だったので、年末年始は人の動きも多いので、コロナのことを考えてやり過ごし、二月半ば迄というので、小正月を過ぎるのを待って、ようやく観に行くことが出来た。

 会場の最初の部屋は、赤や橙色の蛍光塗料を前面に塗った極大の画面が左と奥の壁に貼り付けられており、蛍光色が周囲にまではみ出したような空間を作っていた。これはこれまで全く知らない作品であった。

 次の部屋以降は有名な石と鉄板やガラスの組み合わせの作品、大きな石がガラス板の上に乗せられ、ガラス板がヒビ割れているものや、床に置かれた鉄板の周囲に石が四つ置かれたもの、壁に立てかけられた何枚もの鉄板が少しずつずれて、最後の何枚かは地上に伸びているもの、ゴムのメジャーが曲がって置かれた鉄板に押されているものなどの実物にお目にかかることが出来た。

 いづれも物と物の相互関係に着目した表現で、「もの派」を代表するような作品である。それに続く石の作品では、暗黒の部屋の中の白い床に置かれた二つの大きな石が、上方の一点のみから照らされた作品では、思わず竜安寺の石庭を思い出した。この頃から、「もの」と周りの空間の広がりが考えられていたものであろうと想像され、印象深かった。

 さらに進むと、中庭を利用して、ルコルビジュ邸だかで発表された、石を敷き詰めた庭に石を積み重ねた塔がある作品、さらに進むと今度は「点から」、「線から」などの絵画作品、更に、手が震えるようのなったとかの後の、曲線の散乱したような作品、次いでは、「風から」と称する、大きなキャンバスの周辺部分の2〜3ヶ所のみに描かれた、無の空間を描いた作品など結構楽しませて貰った。

 ただ、会場を出て、外にある売店で、作品の空間を無視して、隅に描かれている部分だけを切り取って模写した小さな土産物を売っていたのが気になった。せっかくの空間が可哀想な気がした。そう言えば最後の方で、同様な空間を意識して隅の方にだけ描かれた作品の所で、描かれた部分にだけ近づいて、長らく眺めていた人がいたのを思い出した。

 李卯煥氏は大学で哲学を収め、「もの派」でも理論的な中心人物であったそうである。解説によると、「芸術をイメージや意味の世界から解放し、自由ななものにする表現を追求し、彫刻の概念を超え、環境への着目、空間と作品を隔たりなく意識する点でインスタレーションの先駆けとでも言える」のが「もの派」だそうである。

 十二分に楽しめた展覧会であった。