静かで綺麗なスラム街

 日本の都会の住宅は、以前から”うさぎ小屋”などと冷やかされてきたように、小さな家がぎっしり詰まって並んでいるような所が多い。最近ではマンションなども多くなったが、今でも一戸建てを望む人が多いようで、40〜50坪にも満たないような敷地に一杯一杯に建てられた3階建ての戸建ての家が隙間もなく並んで、どこまでも続いているような景色が多くなった。

 昔、住宅地として百坪ぐらいの土地を分譲された所も、地価の上昇などもあり、最近は二分、三分割されて、庭もなくなり建物が隙間もなく並ぶようになってきている。

 アメリカなどでは一戸建ての住宅に何人かでシェアして住む若者なども多いが、街中では大きな共同住宅であったり、日本のマンションのようなものであったりするし、一戸建ちであれば庭付きのそこそこの大きさの家が普通で、日本の都会のように小さな建物が密集して何処までも続くようなところは少ない。庭や道路などもゆとりがあり、ゆったりした空間になっているのが普通である。

 そんな違いのある所に外国人がやって来ると、先ずは隙間もなく立ち並ぶ住宅群が何処までも続いているのに驚くが、それがまたあまりにも静かなのに驚かされるようである。

 そう言われればその通り。家が密集しているのに人通りも少なく戸外にいる人もあまり見かけない。少子高齢化で家の周りで遊んだり走り回ったりしている子供も殆ど見ない、子供の泣き声、笑い声も聞こえない。一戸あたりの住民の数も少ない。勤め人は昼はいないし、老人たちはひっそりと家の中で暮らしている。

 アメリカなどでこんなに家が密集してひしめきあっている所といえば、都会のスラム街あたりではなかろうか。ついそれを想い浮かべると、そこでは大勢の人たちが戸外に出て集まり、ワイワイガヤガヤ叫んだり、話したりしているし、子供たちも走り廻っている。建物も傷み黒ずんでいる所が多いし、思わず後退りしたくなるほどに不潔な所も多い。

 日本の住宅街の建て込んで一分の隙もないような街並みは、外観はスラム街に似ていると言えないこともないが、全く違うのはその清潔な雑然さと、音を消したような静寂さのようである。それにアメリカ人が驚いたのはホームレスが全く見られないことだった。

 指摘されるまで気がつかなかったが、そう言われれば、日本の都会の住宅街は長年住み慣れているのに、まるで誰もいないかのように静まり返っていることに改めて驚かされた。