中野弘彦展

 これまで知らなかったが、新聞の紹介記事で、この中野弘彦氏という人は、京都の何必館の館長である梶川芳友氏がずっと伴走者として見守り続けて来た作家で、村上華岳、福田平八郎に続く、真の日本画の精神を継承し、これからの日本画を考える上でも重要だというので、見に行って来た。

 何必館の冷房が効いておらず、あまりにも暑くて長時間絵の前に止まれなかったのが残念であったが、中なか見応えのある展覧会であった。「無常」というタイトルどおり、よくある日本画と違って、描写力や技術ではなく、思想や哲学といったものをどう表現するかといった問題に答えようとした作品であることに惹かれた。

 この作者は藤原定家鴨長明種田山頭火、それに松岡芭蕉らの思想を絵画として視覚化し、無常観を探求しようとしたのだそうである。

 大きな画面に横に一筋の小川が流れているだけとか、上の方に庵が描かれその前方に池が描かれているだけとか、薄くかすれた枯れ木と風の風景など、どれも描写は細やかなであるにも関わらず、全体の印象としては単純な薄暗い感じの、明暗も明らかでないぼんやりと霞んだ中に対象をやっと掴めるような感じの絵で、寂寥と世の無常を感じさせる日本画である。

 そこから、その奥にある人間とは何か、それを絵にどう表現するのかと静かに哲学的な物思いに佇ませてくれる奥の深い感じのする絵であった。

 この作者は美校を出てから、大学で哲学も学んだ人のようで、日本的な無常や死を思う心が根底にあり、いかに生きるかを問いかけていたのであろうかと思われた。最近見た日本画の中ではユニークな作品群で印象深かった。