八等身美人

 八等身美人という言葉を知っていますか?もう今では聴く機会も殆どなくなってしまったが、戦後のある時期には日本中で騒がれ、多くの人が憧れた言葉であったのである。

 昭和28年(1958年)ミスユニバースの第二回世界大会で、伊東絹子さんが世界で第3位に入賞し、メディアにも大きく取り上げられ、国中の噂になったことがあったのである。その彼女の容姿が八等身美人だと言われて騒がれたのだった。

 なにしろ、当時の日本人の女性は殆どが背が低く、ぽっちゃりした感じで手足が短く、大根足で、六等身だなどと言われていたので、アメリカ人のような八等身は憧れの的だったのである。

 1960年頃だったか、日本で最初にミニスカートがブームになった頃には、「履いている本人たちは流行の先端を言っている積もりかも知れないが、背が低く脚が短い日本の女性があんな短いスカートを履いて、大根足丸出しではちっとも素敵ではない。日本の女性にはミニスカートは似合わない」などと揶揄されたものであった。

 それがどうだろう。いつの間にか、日本人の体型がすっかり変わってしまって、今では街や電車の中などで見かける殆どの女性が八頭身ですらっとしていて、以前のような六頭身の女性などは探さなければ見つからないぐらいになってしまった。

 男女ともの背が高くなり、スマートな体型をした若者ばかりになった。昔は電車の出入り口の扉に頭がつかえる様な人を見ると、びっくりしたものだったが、今ではいつでも一人や二人はそんな背の高い人を見かける。時には女性でさえ、扉につかえるような人を見ることもある。

 それも、ひと頃は若者に限られていて、「近頃の若者は背が高くなったものだ」と感心して見ていた時代があったが、現在ではもうそれらの若者のはしりがいいおじさんになってしまい、白髪の人までが皆、背が高くなってしまった。

 私は背は低い方であったが、特別低い訳でもなく、同年輩の者と歩いていても殆どが似た様な背格好だったが、もう彼らも殆どが死に絶えてしまい、今や背の高くなった若者に比べると、余計に背の低さが目立つ様になってしまった。

 日本人の体格がこう変わってしまうと、 TVドラマなどに出てくる時代劇の人物などは、本当は演ずる役者よりも、もっと小柄で短足で、痩せて筋骨の目立った体だったのだと想像して見た方が良さそうである。 

 最近思うのは、戦後の80年足らずの短い間でも、社会環境が変わり、生活様式も変化して、栄養が良くなり、運動量なども違ってくると、人々の体型も顔つきも、こうまで変わるものかということである。もうやがて、「昔の日本人」はいなくなるであろう。