「地域の安定 損ねる」のは誰か?

 6月12日の新聞には、シンガポールであったアジア安全保障会議で、オースティン米国防長官と中国の魏鳳和国防相が会談したことが報じられていた。

 二人が両軍の意思疎通を続けることで一致したことは良いが、オースティン長官が演説で「台湾周辺での中国の軍事圧力の強まりについて、インド太平洋地域の安全と安定、繁栄を損なう恐れがある」と批判し、中国代表団からは反発の声が聞かれたと報じられている。

 新聞の見出しには『「地域の安定 損ねる」米国防長官 台湾巡り中国批判』と出ていたが、アメリカは繰り返し、一つの中国を今でも認めているのであり、万一仮に、中国が台湾を武力統一したとしても、国内問題であり、アメリカが兎角言う立場ではないはずではなかろうか。

 新聞の報じるように、「中国は台湾付近で挑発的で、不安定化につながる軍事活動を増加させている」としても、中国の自国の周辺での行動と、本国から遠く離れたアメリカ軍のそれと同一には考えられないだろう。更には、アメリカは台湾への軍事支援を続けるとしているのだから、どちらが挑発的かわからない。誰からみても、「地域の安定 損ねる」のは誰か?と疑問を抱かざるを得ない。

 そのアメリカに乗せられて、最近、急激に軍備費を総予算の2%以上に増やしたり、沖縄に自衛隊の基地を増強し、敵基地攻撃能力まで備え、臨戦体制を取ることは、将来の日本の安全を保証するより、日本を戦争に巻き込む危険に晒すことになるであろう。アメリカは戦わず、武器だけ売りつけ、日本に戦わせようとしていることが見え見えである。

 世界は動いている。アジアの国々も最近のアメリカの対中政策に同意しているわけではない。アメリカの世界の警察官としての時代は終わりを告げようとしている。中国排除ではなく、中国をも巻き込む包摂的な秩序を思考すべきであろう。いつまでも対米関係だけに縛られていることはこの国の未来を危うくし兼ねない。

 日中対話など、日本の外交的な対策が一向に報じられないが、今こそ日米安保条約の下でも、日本は独自の外交に力を入れて、中米の矛盾を緩和し、アジアの平和を維持するために、積極的に働きかけることを軍事増強よりも優先させることが、戦争を予防し、日本を守り、アジアの平和に貢献する道である。