映画「ベイビー・ブローカー」

万引き家族」などの数々の名作映画で、今をときめく是枝監督が韓国へ行って、映画「パラサイト」の主演ソン・ガンホなどと作った韓国映画「ベイビー・ブローカー」が宝塚のシネ・ピピアに来たので早速見に行った。

 カンヌ国際映画祭でコンペティッション部門とソン・ガンホの主演男優賞と2賞をもらった作品だそうである。

 古びたクリーニング屋を営みながらも、借金に追われるソン・ガンホ扮するサン・ヒヨンと、「赤ちゃんポスト」のある施設で働く児童養護施設出身のドンスが「赤ちゃんポスト」の赤ん坊をこっそり連れ去るところから始まる。彼らの裏家業はベイビーブローカーなのである。

 ところが、翌日、赤ん坊を捨てた若い女性ソヨンが思い直して戻ってきて、赤ん坊のいない事に気づき、警察に通報しようとしたので、仕方なく二人は「赤ちゃんを育ててくれる家族を見つけようとしていた」と語り、結局、成り行きで三人は一緒に養父母探しの旅に出る事になる。この若い女性ソヨンががまた、韓国の若い有名歌手で、映画初出演のイ・ジウンということらしい。

 サン・ヒヨンとドンスは「養護施設ではなく、欲しがっている親に渡すことが、この子の幸せになる」と力説するが、すぐにカネ目当てと見破るソヨンは、子供の買い手探しに付き合うことになる。

 こうして奇妙な養父母探しの旅が始まるが 途中から隠れて車に乗り込んで一緒になった施設の子供も交え、共に行動するようになって、次第にお互いに本当の家族のような感情が芽生え、ここで「擬似家族=まがいものの共同体」が、時に「本物の家族=伝統的な共同体」を凌駕する強い結びつきを持ってしまうことを、是枝監督が感動的に描いてみせている。

 これに、彼らを検挙しようとして尾行する二人の女性刑事アン・スジン刑事(ペ・ドゥナ)とイ刑事(イ・ジュヨン)の二人を絡ませている。「捨てるのなら、産まなければいい」と冷たい視線で、ステレオタイプな意見を振りかざす警察官は、サンヒョンたちが赤ちゃんの買い手を探す旅を尾行し続け、現行犯逮捕したいので、おとりの買い手まで仕込むが、なかなか取引が成立せずにやきもきする。

 そのうちにまるで「家族」のように互いにかばい合い、支え合う「悪人たち」の姿を観測するにつれ、自身の内面とも向き合うことになる。偽装であっても笑い声があふれるサンヒョンたちの“家族”関係に憧れを抱き、子供を授かれないスジンが、子供を売ろうとしているサンヒョンやソヨンたちを憎しみから罰したいという思いの反面、自分もウソンの世話をする仲間に加わりたいと感じ始める事になる。

  最後は検挙されるが、ラストではスジンに育てられた赤ん坊が、3年後に釈放されて自由な身となったソヨンが一緒にいるが、クリーニング屋の車に乗ったソン・ガンホ演じるサンヒョンがそれを遠くから眺め、そっと車で去っていくという結末になっている。

 サンヒョンは終盤で家族に捨てられ、自分が血の繋がった家族にとって不要な存在となり、

自らの悪事を直視して自分を肯定できなくなった時、「自分がいなければ、みんなが家族として幸せに暮らせる」と心の奥底で考えたのであろうか。

 ソン・ガンホの演技が支える画面の印象が、万引き家族やパラサイトにも似た感じがしており、是枝監督らしい邦画の雰囲気を感じさせられた映画であった。