りんごと地球

 私が子供の頃、父が住友銀行に勤めていた。当時は三菱、三井、住友が三大財閥と言われており、国内の富の多くを握っており、日本はまだ農業国で貧しく、東北などでは、冷害や経済的不況などの時には、小作人は娘を売らなければ食えないような時代であった。

 一方で、封建的な身分社会はなお続き、財閥は殿様のようなもので、新年には、住友一族の会社の幹部は住友家に新年の奉賀に参集するのがしきたりのような時代であった。

 そんな時代の中で、何かの機会に、子供たちが我が家の財産について尋ねた時の母親の説明を今でも覚えている。うちにあるお金や貯金などを全部合わせた財産がリンゴの大きさだとすると、住友さんの財産は地球の大きさ位だと教えてくれた。りんごの大きさはすぐ分わかったが、地球がりんご同様丸いことは知っていても、自分らが住んでいる地球の大きさについては実感がなく、ただとてつもなく大きいと言う感じだった。

 勿論単なる比喩に過ぎなかったわけであるが、実際にも、りんごの体積が大きいものでも精々500ccぐらいなのに対して、地球は1兆833億1978万 km3と言われ、比較の対象にもならないことは言うまでもない。当時も日本での格差は酷かったものである。

  こういった資産の格差は第二次世界大戦を経て、戦後は多少小さくなっていたが、1970年を過ぎてから再び拡大し、今や世界中で問題となっていることは周知の通りである。

「世界のトップ62人の大富豪が、全人類の下位半分、すなわち36億人と同額の資産を持っている」大ざっぱに言えば、1台の大型バスに収まる程度の金持ちが、世界の人口の半数を養える額、約180兆円を持っていると言われ、りんごと地球以上の格差で、庶民にとっては気の遠くなるような話である。

 現在、世界の総資産額ランキングのトップは、マイクロソフト創業者、ビル・ゲイツ氏の約9兆1000億円。以下、メキシコの通信王カルロス・スリム氏の8兆9000億円、投資家ウォーレン・バフェット氏の8兆3000億円……という具合に続く、と書かれていたが、今では少し変わって1位はジェフ・ペソス。2位がビル・ゲイツ、3位フランスのベルナール・アルノー一族、4位がパフェットだとか。

 日本のトップではユニクロ柳井正社長がトップで、資産総額約2兆3000億円であり、世界的には第41位、日本人ではただひとり、「金持ちバス」の乗客名簿に名を連ねているとか言われているらしい。

 誰がどれだけお金を持っていようと、我々庶民にとっては関係のないことだが、今でも多くの人たちが貧困に喘ぎ、その日の生活にも困っているというのに、一方では想像もつかないような金持ちがいるという不平等な世界の現実には誰しも腹が立つであろう。

 同時代を生きる同じ人間でありながらのこの違いが、それぞれの人の持って生まれた素質や努力の賜物だというには、余りにも格差が大き過ぎることは今や誰の目にも明らかであろう。

 平等を無視した「自由な民主主義」は必ずやいつの日か破綻せざるを得ないであろう。