政府の学術会議会員任命拒否は亡国への道

 内閣府が所管する日本学術会議が推薦した会員候補6人の任命を菅義偉首相が拒んだ問題は、「学問の自由への不当介入」との批判を招き、発足から間もない政権は早くも火種を抱えることになった。

 学術会議会員の任命権は首相にあるが、学問の自由の観点からも政府から独立した体制であるべきで、中曽根内閣の時に、国会で首相が明確に「任命権は首相にあるが、形式的なもので、推薦者を内閣が拒むことはない」旨答弁しているのである。それ以後に解釈変更していないと政府は言うが、政府にはこの任命拒否の理由や経緯を明らかにすべき責任がある。

 学術会議の会員推薦を政府が恣意的に拒むことは学問の自由を侵害することになり、政府に都合の悪い主張は抹殺され、学問を歪めることになり、それは政府の独裁政治にも繋がっていく、恐ろしい問題である。

 戦前の京大の滝川事件や津田左右吉事件などを思い出すが、その結果がどうなっていったか、その後の大日本帝国の歩みを見ればわかるように、今回の政府の恣意的な任命は再びこの国の運命を怪しくしていくことになりかねない。

 政府に反対する学者が排除され、予算による学者の支配、忖度が進めば、政府は客観的な情勢の判断を誤りながら政策を進めかねず、次第に反対者を封じていって、遂には、誰も反対できない状態となり、戦前の苦い経験を繰り返すことにもなるであろう。

 戦争は一度に急に出来るものではない。いろいろな事が次第に積み重ねられていって、最後には誰も反対出来なくなって、戦争になったことは戦前の貴重な苦い経験である。今回の政府による学術会議会員の任命拒否は、専門的な学問の世界の中だけの問題だと見逃してはならないことで、国民全体の運命にかかわる重大事である。こぞって反対すべきであろう。

 政府は任命拒否の理由を国民に説明すべきである。