Black Lives Matter (B.L.M.)

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 先にこのblogでも取り上げたが、アメリカのミネソタ州ミネアポリスで、黒人男性のジョージ・フロイドさんが白人警察官に約8分間にわたって、膝で首を押さえつけられて殺された事件以来、警察官による黒人差別に抗議する運動が、全米のみならず、世界中の各地に広がり、「Black Lives Matter」のスローガンを掲げた運動は今なお続いている。

 この「Black Lives Matter」とは、日本語で言えばどういうことになるのか。この翻訳は助詞一つで微妙なニュアンスの違いが生まれ、いろいろ議論もされているようである。

「黒人の命は大切」「黒人の命も重要」「黒人の命こそ大事」どれが良いか、日本語では「は」「も」「が」どれも間違いとは言えないが、どれも正しく、どれも物足りないということになりそうである。

  SNS上でも、翻訳が問題になっていたが、英ロンドン大、日本語学科卒のブロードキャスターピーター・バラカンさん(68)はラジオ番組のリスナーに訳を問われて、「黒人の命を軽くみるな」と訳したが、「直訳は難しく、悩む人も多いと考えて番組で取り上げた。英語ではIt doesn't matter(気にしないで、大したことない)の表現をよく使うので、その反対と考えた」と言ったそうである。

 村上春樹は「いろんな人が翻訳しているんだけど、どれもピンとこない。もし僕が訳すとしたら『黒人だって生きている!』というのが近いように思うんだけど、いかがでしょう」と言っている。また、坂下史子・立命館大教授は、あえて訳さずにカタカナのままの方が良いとの立場で、言葉の先にある複雑な意味を考えるため、簡単に答えを出せない方がいいのではないか、という見方のようである。

 「 All Lives Matter」という言い方もあるが、黒人たちの願いはもっと強いものであり、アリシア・ガーザさんは「私たちはすべての命が大切だと当然認識しています。しかし、私たちはすべての命が大切だとされている世界には住んでいないのです」と語ったそうである。「 All Lives Don’t Matter Until Black Lives Matter」という書き込みも見られた。

 Gorge Floyd氏殺害後も、警察官による人権無視の黒人差別は続き、最近はWisconsin州で、Jacob Blakeさんが、自宅の前で子供のいる前で、後ろから7発も撃たれて、命は助かったが、両側下肢麻痺の重傷に陥った事件などもあり、Black Lives Matter運動による警察組織の体制の改善が叫ばれているが、抗議集会の一部が荒れたのにつけ込んで、トランプ大統領が州兵を動員して、治安を守れと号令するなどのことも起こり、解決にはなお時間がかかりそうである。

 日本語訳を巡る議論についての意見でも、セクストンさんは「どんな言葉を使うかということよりも、この問題に関心を持つことが大切だ。難しく考えずに、私たち黒人のことを知り、黒人差別が存在する現実を認めてほしい」と訴えている。

 アメリカのこの人種差別の問題は、かっての奴隷制度から、奴隷解放後の犯罪者除外規定によって続いて来た人種差別政策で、その後、公民権運動などを経て、次第に改善しては来ているものの、未だにこの古くからの人種差別はなくならず、しばしば、警察による、いわれのない人権侵害、ひどい時には投獄や殺傷、殺人にまで及ぶ黒人や、非白人に対する事件が後を絶たないようである。

 これは決して遠いアメリカでの黒人の話であって、自分には関係のないことではないことにも気付いて欲しい。何故ならこれは誰に取っても基本的な、人権の問題だからである。誰しも、無関心の善人であってはならない。現に不当な人種差別で人権を侵されている人たちがいるのである。世界中の民主的な人々と連帯して、あらゆる所で、あらゆる人々の人権が守られるように、アメリカの遅れた警察組織の改善を要求する義務があるのではないであろうか。

 基本的人権の尊重を求める声は決して「内政干渉」ではない。アメリカ政府がずっと世界に向けて主張していることである。日本人も、かっての黄禍論やJapなどと言われて差別される方であったし、今も同等に扱われないことも多い。1960年代には真の南部まで行かなくても、Virginiaでも、「White Only」と書かれたレストランなどが見られたものであった。

 世界の人々が無関心を装わずに、人々の基本的な人権を尊重するために、連帯して声を上げることを願ってやまない。