朝の体操

 まだ若くて仕事をしていた頃は、毎日忙しく動き回っていて、決まった体操などをしたこともなかった。もともと子供の頃から体の動作が不器用で、走るのも遅く、体操にはあまり興味がなかったので、学生時代にも野球や他の球技も殆どしなかったし、大人になってからも、ゴルフなどだいぶ勧められたがとうとうしなかった。ただ歩くのは好きだったし、好奇心だけは強かったので、暇があればあちこち見物などにはマメに出かけていた。

 ところが80歳を過ぎて毎日の仕事がなくなり、動く量が少なくなって、体の衰えも感じ始めるようになり、健康のために少しは体を動かした方が良いだろうと思うようになり、一番容易に始められるので、毎朝テレビのラジオ体操を始めた。もう時間もあるし、歳をとって朝起きる時間も早いので、毎朝欠かさず続けることが出来た。

 こうしてラジオ体操をずっと続けていたある日、何かの機会に腕立て伏せの話が出て、そのぐらい簡単なことだと思って試してみたところ、たった一回でも一旦下げた上体を上げられないではないか。こんな筈じゃなかったのにと驚いて、これではいけないと、以来ラジオ体操の前に腕立て伏せをすることにした。

 以来腕立て伏せを毎日していると、えらいものである。初めは一回でも腕が上がらなかったのが、毎日やっているうちに、次第に回数を増やしても出来るようになり、最後には毎朝25回腕立て伏せをして、後10回膝をついての同様動作を10回することになり、以後それがずっと続いている。これが私の自己流体操の始まりである。

 その頃からラジオ体操のような有酸素運動ばかりでなく、いわゆる筋トレ運動もした方が良いと思っていたので、まずは腕立て伏せに続いて、膝の屈伸なども加えることにした。そのうちに、相撲を見ていて、日馬富士の仕切りの際の低姿勢の踏ん張り姿勢や琴奨菊の後方へ両腕を上げての反り返る動作が気に入ったので、その真似をも取り入れることにした。

 それと同時に、相撲の稽古でよくされている、膝を曲げたままの姿勢で、腕を伸ばしたり曲げたり回したりする運動も加え、終わりに四股を踏むことにした。

 そのうちに今度はテレビで、地面からどのぐらいの高さで、腰を下ろしている姿勢から片足で立ち上がれるかが問題とされる話を見て、今度はそれも取り入れて、低いテーブルに腰を下ろし、そこから片足で立ち上がるのを繰り返すことにし、ついでにその時、握力を高めるグリップを両手に持って、立ち上がるのと同時にそれをも握るようにした。ついでにエクスパンダーを両腕で広げる運動もその後に加えた。

 またある時、片足立ちが難しいことに気がついて、それも取り込んで、片足づつ1分間、一本足で立つ時間も作ったが、案外これが難しかった。目を瞑ると5秒も立っていられない。開眼でも、ついふらついて途中で足をつくことになりやすい。

 今度はある時の医師会の会合で、スポーツのインストラクターから教えて貰った、ゆっくりと片足づつ膝を曲げて横に下げた手が地面に着くまで膝を曲げる動作を、片足づつ10回続けたり、かがとだけ、足先だけで姿勢を正して歩く動作も取り入れることにした。

 こうして色々なものが取り揃えられ、これらが組み合わされて、自然と私なりの体操プログラムが出来た。最後は地面に尻をついている姿勢から手をつかずに片足立ちで立ち上がるのを10回繰り返して終わることになった。

 以来毎朝ラジオ体操の前にこれらを続けて行うことにしている。少し盛りたくさん過ぎるようになったきらいはあるが、折角の出来たプログラムなので出来るだけ続けていきたいと思っている。全部で40分ぐらいはかかるので、始めるのが少し遅れると、ラジオ体操に間に合わなくなり、途中で止めてラジオ体操に移行しなければならなくなることもある。

 それでももう10年は続いている。そのおかげで昨年秋に起こった脊椎管狭窄症なるものも、8ヶ月かかったが、殆ど良くなったのではなかろうか。体が言うことを聞いてくれる間は続けたいものだと思っている。