もともと私は運動が得意ではなかった。その上、ガニ股で歩く格好が悪かったのか、中学校に入学して最初の体操の時間に「正常歩」といって並んで歩かされた時に、先生に歩き方が悪いといって列から摘み出された。
正常歩というから普通に歩いたら良いと言われて歩いたのに、歩き方が悪いと言われても、どう直せば良いのかも教えてくれず、全く納得がいかなかった。それが大きなトラウマとなって、余計にスポーツや運動から距離を置くようになった。教師は気をつけるべきである。
そんなこともあって、学校でも課外のスポーツクラブにはどこにも入らなかったし、以来ずっと自らスポーツをやろうとも思わなかった。やらないので益々スポーツは何も出来なくなり、運動は強制された時に仕方なしにやるようなものになっていた。
従って、社会人になってからも野球やテニスはもちろん、ゴルフも再三誘われたが、遂にせずに通した。こうして、スポーツや運動には縁のない生活を送ってきたが、歩くのは好きで、ハイキングにも出かけたし、暇があればあちこち歩きもした。山歩きにもいった。定年を過ぎて産業医として市内の会社へ勤めるようになってからも、わざわざ半時間ぐらい街を歩いて通勤したりした。
ところが八十歳で毎日の仕事を辞めてから時間も出来たし、女房も歳をとってきたので、二人で相談して朝のテレビ体操をすることにした。初めはずっと続けるつもりもなかったが、二人で始めたのが良かったのか、以来ずっと続いている。体操自体よりも、朝の生活の区切りになり、規則正しい生活を始められるのに役立っている。
こうして、四、五年経った頃だろうか、ある朝テレビ体操のついでに、何の気なしに腕立て伏せをしてみたら何と一回も出来ないではないか。腕に力が入らず、体が持ち上がらない。こんな筈ではなかったと思いやり直してみても、曲げた腕で体を支えるだけが限界で、腕で上体をを持ち上げることが出来ない。
これではいけない。アイソメトリックの要素が強い運動も加えなければと思い、それからテレビ体操をする前に腕立て伏せをするようにした。毎日繰り返していると、次第に回数を増やして出来るようになり、十回出来るようになったら嬉しくなって、しばらく続けたが、また少し回数を増やし、やがて二十回とし、最近は「おまけ」を加えて二十五回にして続けている。慣れとはえらいもので、 初めは頑張ってやっと出来たものが今では楽に出来るようになった。
今や仕事に行っているわけでなく、時間も十分あるので、こうして運動に興味が出てくると、その時々に得られたいろいろな情報が参考になり、自然と腕立て伏せだけでなく、色々なものが加わり、いつの間にか自分流の運動メニューが出来て、今ではテレビ体操の前に二、三十分それをやって、それからテレビ体操をするのが、朝の日課になっている。
先ずはどこでも良く見かける下肢のストレッチと、カウチの下に両足を突っ込んで上体を起こす運動が加わったが、その頃、テレビで何センチの高さの椅子から片足で立ち上がれるかという運動テストを知り、やってみるとなかなか難しくて出来ないので、サイドテーブルに浅く腰掛けて片足で交互の立ち上がる運動も加えた。
次には、テレビで相撲を見ていて、日馬富士の仕切りの低く踏ん張る姿勢と、琴奨菊の仕切り前のふんぞり返るような動作が面白く、それらを十回繰り返すのを取り入れたり、相撲体操というのを知って、腰を下げた姿勢で両腕を動かす動作をした後、四股を踏む動作も取り入れた。
また、その頃心筋梗塞を起こして入院、ステント治療を受けたが、そこでリハビリに椅子に座ったり立ったりする動作を学んだり、医師会の勉強会で運動のトレーナーの人からゆっくり膝を折って体を低くする動作をゆっくりするのが良いことを教わったりしてそれらも取り入れた。
更には、ある時田舎へ旅行した時、和式便所を使わねばならないことがあったが、長時間屈んでもおれず、容易に立ち上がる事も出来ずに難儀し、それに懲りて、スクワットの後に蹲踞を加えたりもした。その他にも人の勧めや、何かの情報を取り入れたりして今のメニューが出来上がった。これらを時間の関係で全部こなしたり、一部だけでテレビ体操に移ったりしている。
以上が私が毎朝やっている体操のあらましであるが、その効果はどうかと思われるであろう。私はもともと体は柔軟な方だと思っており、足を揃えて直立した姿勢で上体を前屈した時に、両手の掌が地面についていたが、九十になる今でもそれが可能である。最近は肩こりや腰痛が全くない。これらのことはテレビ体操のおかげではないかと思っている。
しかし、それより有難いことは最近転ばなくなったことである。八十過ぎてから年に何回かは道を歩いていて、何かに躓いたり、躓かなくても転ぶことがあり、ステッキを持つようになったが、あまり気がつかなかったが、最近は全く転ばなくなった。勿論そんなことを言っていたらその内にまた転ぶかも知れないが、有難いことである。このような運動を続けている効果であろうかと思っている。
時々転倒する経験のある老人方には是非お勧めしたいと思っている。