テレワークの出来る人、出来ない人

 今年の冬から新型コロナ(Covid19)の流行が始まって、オーバーシュート的感染拡大を防ぐためには、出来るだけ仕事を休んで家に留まり、三密(密閉、密集、密接)を避けようということが強調されている。政府も出来るだけ家にいて、人との接触を避け、仕事も出来るだけテレワークなどを利用して、会社に出てくる人数を減らし、必要不可欠な店以外は出来るだけ一時的に閉めて、都会での人の接触を少なくしようと躍起になっている。

 日本の場合、この流行がどうなるかまだ分からないが、こういう感染症パンデミックが起こると、金持ちは先ずは都会からの脱出を図るものである。ペスト流行時のフィレンツエから脱出した人々によってデカメロンが書かれたことは有名であるが、今回の新型コロナ流行でも、既に特別措置法が出来る直前の軽井沢では、東京のナンバーの車が押し寄せて来ていたそうである。

 もちろん、仕事をしなければ生活出来ない庶民はそんな訳には行かないが、それでも何とか新型コロナなどには関わりたくないのは人情である。何とか逃れるためには「三密」も守りましょう、Stay HomeやSocial Distanceにも従いましょう。マスクをして、手洗いも励行しましょうということになる。他人がそれを守らないことにも苛立ちを感じる。テレワークで満員電車に乗って会社に行くことが減るのは大賛成である。しかし何処ででも、誰でもが、テレワークを出来るわけではない。

 大きな会社では、既にIT関連の仕組みが進んでいた所も多く、既に部分的にテレワークに準じる仕事のやり方を取り入れていた所もあり、あまり抵抗なくテレワークを広められたにしても、中小企業となるとそうはいかない。IT関連の活用も遅れているし、小人数で各個人がそれぞれ色々な仕事を請け負っているので、全ての仕事をテレワークに委ねるわけにはいかない。事務的処理にもアナローグが多く残っていたり、現物を扱わねばならない割合も多い。どうしても会社に出て来なければ仕事が進まないことも多いのではなかろうか。

 また比較的大きな会社でも、金融や証券など事務的な仕事だけのような会社はまだ良いとしても、製造会社となると、幹部クラスの人たちは会社の運営や外部との交渉、文書の立案、整理、部下への指示など、事務的なことが主なので、テレワークもしやすいだろうが、下働きの雑務をこなしているような人は、どうしても出て来なければ仕事が捗らないことが多い。交代で出て来るようなことをしている所も多いが能率は落ちる。

 今はそういう雑用などを派遣社員に頼っている所が増えたので、社員はテレワークをしてそれで賄えない雑用部分を派遣社員に頼っている所も多いのではなかろうか。課長だけがテレワークで、あとの派遣社員はテレワークの対象にはならず、従来通りの過密職場で働いている会社での話。労働者が会社に訴えたが、派遣会社は応ぜず、労働局や労働組合に申し出ている話が新聞に出ていた。新型コロナによる生命の危険まで、正社員と派遣社員で区別があって良いものであろうか。新型コロナのパンデミックはこうした労働現場での矛盾をも浮き彫りにしている。

 アメリカでも、ニューヨーク市保健局の発表する感染地図は、テレワークの可能な人の職場が集中するマンハッタンの感染率が激減する一方で、在宅勤務など不可能な人の多く住む地区の感染率が増加している現実を示しているそうである。これから見ても、テレワークが弱者の低賃金労働に支えられてしか成立しないことがわかる。

 さらには、医療関係や介護関係で、どうしても人と人が密接に関わらないと成り立たない仕事の多いことも忘れてはならない。しかも、そういう所で人員は足りず、必要不可欠なガウンやマスクさえない現実がある。テレワークといった優雅な話ではない。ガウンが手に入らなくても介護を止めるわけにはいかないので、大きなゴミ袋を被り、切ったり、接着テープで貼り付けたりして、ガウンの代わりにして、危険と隣り合わせの介護に当たっている姿など、誰にも見せたくないような姿をして仕事をしなければならない人たちもいるのである。

 こういった人たちに支えられて、テレワークも成立していることを忘れてはならない。。