空白になった手帳

 若い時には記憶力が良いので、色々な予定が重なったりしても、皆覚えてられるので、必ずしも手帳がなくても困らない。ところが歳が行くと、仕事も複雑になり、交友関係も増え、予定が輻輳するようになるので、手帳が予定で埋め尽くされ、手帳が行動の規範のようにもなる。やがては記憶力が衰えてくるので、手帳に頼らねば約束が守れなくなる。更に歳をとって社会から引退するようになると、手帳に書いていても、手帳を見ないために失念して約束を違えることにもなりかねない。

 私もその大方の例に漏れず、90歳も過ぎれば、手帳の記載も少なくなってはいたが、それでも、毎月の決まった仕事や、医師会関連の会合や勉強会、趣味の絵や写真の会合、それに不定期な音楽会や舞台、それに絵画展や個展など、それに残り少なくなってはいるが、友人、知人などとの会合など、決まった予定は全て予め手帳に書き留めてきた。現役時代のように、毎日出かけないようになり、出かけるのが不規則になるので、必ず毎朝手帳を見る習慣にして来た。

 ところが、この2月頃からの新型コロナ(Covid19)の流行である。それまでに手帳の書かれていた予定の行事が次から次へとキャンセルされていって、4月になると殆ど全ての行事がなくなってしまい、手帳の記載は次々と傍線が引かれてすっかり消えてしまった。

 もう5月以降の手帳の予定を見るともう何もない、全てのページが真っ白なままである。こんなことはかって経験したこともない初めてのことである。政府の特別措置法も1ヶ月延長されたし、いつから色々な行事が元に戻って来るのか予測さえ立たない。

 それまで手帳は空白なままであろう。空白時間があまり長く続けば、もう手帳を見る習慣がなくなってしまって、たとえ新たに予定が書き込まれても、見るのを忘れて役に立たない日が来るのではないかと心配である。