電車の中の孤独死

 先日朝日新聞だったかの  SNSのニュースを見ていて驚かされた。東京や新宿を通って行き来している電車の中で、死んでいるのに十二時間も誰にも気づかれず、最後に終着駅の小田原での車両点検で初めて気付かれたと言う話である。

 朝8時ごろ渋谷で湘南新宿ラインに乗車。丁度ラッシュ時である、本人は小山へ行くべくであったが、列車は宇都宮まで行き、引き返して、今度は上野東京ラインで東京や品川を経て平塚まで行き、再び宇都宮まで走り、もう一度引き返して、最後に小田原まで行って、回送前の車内点検で死亡しているのが初めて発見されたのだということらしい。

 小山で降りなかったということは、そこに着くまでに死亡しているか、動けない状態になっていたということであろう。そこから宇都宮まで行って引き返しているのだが、渋谷乗車以来、死前の苦悶状態なり、何らかの兆候にも、誰も気が付かなかったのであろうか。およそ十二時間、乗降者の多い都心を4回も通っているのに、誰にも気づかれず、死んだまま座席に座っていたことになる。

 窓際の二人座席に座っていたというから、車両の端の席に腰掛け壁に持たれていたので気付かれ難かったこともあるのであろう。それにしても、都内の路線を4回も行き来しているのだから、大勢の人がこの人を見ていたに違いない。しかし、都内の路線では短区間の乗降客が多いし、混雑していたら視界も効かない上、今は多くの乗客がスマホを眺めっぱなしで、他の乗客には殆ど関心がない人が多いので、誰にも気づかれずにいたのであろうか。

 それにしても終着駅の宇都宮や平塚でも、今は車内の点検もせずに次の乗客を乗せているのであろうか。確かに折り返しの短時間に長い列車を端から端まで短時間に点検することは困難かも知れないが、人員削減や効率化のために、規則として点検はもう無いのであろうか。折り返し駅での車内点検さえあれば、そこで判ったはずである。

 家族は本人が出てからメールで連絡したが返事がなく、会うべき人からも現れないとの連絡もあったらしいが、万一事故にでも遭遇したのなら病院からでも連絡があるだろうと軽く考えて、心配しながらも連絡を待っていたようである。

 十二時間もの間、大勢に人の真前にいながら、誰にもその死に気づいて貰えなかったことは、正に大都会の冷酷さを表した象徴的な事例と言えるのではなかろうか。