ある蕎麦屋さん

 阪急の池田駅のすぐ近くに小さな蕎麦屋さんがあることは以前から知っていた。駅前から市役所の行くショートカットになる道筋なので、時々その前を通るものの、何処にでもあるような場末の蕎麦屋だと思って、いつも通り過ぎていた。

 ところが昨年ニューヨークに住んでいる上の娘が帰って来た時、亭主と一緒に出掛けて帰ってから、どう見てもその蕎麦屋で蕎麦を食べて来たようで、美味しかったと言っていたが、あんな店でそうかなあと思っただけで忘れてしまっていた。

 それが今度はロスに住んでいた娘が帰ってきており、それをたよりに一人の孫が来たので、桜を見に五月丘公園に行ったが、時間的にもう午後1時半も過ぎてしまっていたので、孫の希望もあり帰途その店に立ち寄った。

 入り口は裏びれた場末の蕎麦屋の感じだが、入って見ると中は客で一杯、席は2階しかないという。どしたものかと思っていると、入り口に近いカウンターに座って、まさに食べ始めようとしていた女性が私の歩行車を見て、自分の親も足が悪いのだからと言って、親切にも席を譲ってくれたので、感謝して四人揃ってカウンター席に並ぶことが出来た。

 店は小さいが、我々が入った後も客は次から次とやって来て、いつも満席のようである。最近はSNSを見てくる人が多いので、そんな関係かも知れない。カウンターの中では、調理人が一人で切り盛りし、従業員の女性三人が調理場や客周りのことを務め、その他に会計も任されているう若い男性が一人いた。

 昼の定食のようなものを注文したが、まずは前菜に何か知らない美味しい和物が出て、次いでお蕎麦は4種類、塩をかけて食べる蕎麦に続いて、桜の花を練り込んだ真白な蕎麦とせいろ蕎麦.、最後が太い噛み出のある蕎麦であった。最後に、これも少し変わったアイスクリームのデザートまでついていた。変わっているだけでなく、なかな美味しく、上の娘の言った意味がわかり、この店を見直した。

 料理人の主人は若い時に、何処かで食べた蕎麦がおいしく、それに惚れてあちこちで修行し、独立した人のようで、孫のカタコト日本語なども挟み、会話も弾んだ。すぐ近くに住みながらこれまで全く無視していたが、上の娘の来訪がきっかけとなり、今回の下の娘と二人目の孫の出現で、思わぬ発見があったことになる。

 もうすぐ入れ替わりで、他の孫たちもやってくるので、またこの店にも寄ってみようと思っている。