九十五歳も超えると長生きだというので、「長生きの秘訣は?」などと聞かれることが多くなる。
昨年の六月には、孫が来て、「95歳の祖父の1日」だとか言って、私の生活の一端をビデオに取り、それををTiktokに投稿したら馬鹿受けして、Page Viewが百万を超え、注目したアメリカのテレビ会社からの依頼で、孫の書いたいい加減な私の記事がCNBCの電子版に載ったりしたこともあった。
そこには適当なことが書かれていたが、本人の私に言わせれば、長生きの秘訣など特別なものはないということである。長生きしようと思ったことなど一度もなかったが、ただ生きているうちにいつしか時間がたって、気がついたらもう95歳になっていたというだけのことである。
強いて言えば、長生きの秘訣などなく、遺伝が一番大きな要素ではないかということぐらいであろう。 明治生まれの父が94歳、母が97歳で亡くなっているのを見ると、それなりの遺伝子に恵まれていたのであろう。それをただ受け継いだ結果に過ぎないのではなかろうか。
それに近年は社会一般の生活環境も良くなり、伝染病などが減ったという外部環境も影響しているのであろう。近年は私の周辺を見渡しただけでも、百歳を超えた人たちの話を普通に聞くように、長生きする人が増えたことでも分かる。一緒にクロッキーを描いている人の中にも103歳の女性もいる。
それでも最近やかましいのは、生活習慣病と言われる、肥満や高血圧、糖尿病、高脂血症、それに喫煙などが命を縮めているとされ、長生きの秘訣はなどと言った質問の元になっている様であるが、これらも遺伝的な影響が強く、幸い私は生活習慣が良かったわけではないが、どれにも当てはまってはいない。
タバコは若い時には吸っていたが、四十二歳でやめている。それの関係があるかどうかはわからないが、八十七歳の時に心筋梗塞にかかり、ステントを入れている。医者をしていたので、毎冬一、二度は風邪を引いたが、やめてからはそれもなく、年並みのあちこちの不具合がないわけではないが、日常生活の大きな妨げとなるようなこともないので、薬は何も飲んでいない。
強いて言えば、要らぬ薬を飲まないことが長生きの秘訣の一つなのかも知れない。最近はやたらと薬をたくさん飲んでいる人が多いようだが、どんな薬も効能は限られているが、薬は体全体に働くものだし、多くの薬を飲めば飲むほど、相互作用のあることも知っておくべきであろう。保健薬や健康増進薬などと言われるものも、作用が弱いだけで同じである。保険薬などを30種類も飲んでいる人がいてびっくりさせられたこともあった。
体は部品の寄せ集めでなく、精神的なものを含め、全体の生活実態が健康を決めるのである。全体を見ない分析的方法では、大局的に見れば、必ずしも医療や健康への効果が出るとは限らず、長い目で見れば返って寿命を縮めかねない。人間は動物である限り、日常生活の中で体も動かすことが必要なのも普通の姿であろう。
強いて言えば、日々に出くわす個々のトラブルにあまりとらわれず、全体を見て、素直になるべく自然体で生きることが健康や長生きの秘訣とでも言えるのかも知れない。